晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>K9

幽霊?
そう、そうかもしれない。
自分の隣にはな、誰もいなかったんだよ!
藤澤以外、誰も寝ていなかったんだ。
(じゃあ、さっきの寝息は……)

自分は、藤澤を起こそうとしたんだ。
藤澤には悪いが、朝までずっと起きていてもらって、話でもしていようと思ったんだ。
そして……。
藤澤を起こそうとして、あることに気がついた。
自分は、心臓が飛び出すかと思ったよ。

自分と藤澤の間の床がな、濡れていたんだ……。
そんなところに、水が入ったものなんか置いていなかったんだぞ!
それどころか、テントの中には、水が入ったものなんか、何もなかったんだ。
それなのに、床が濡れているんだよ!

自分は、急いで藤澤を起こしたよ。
そして、このことを藤澤に話したんだ。
すると藤澤は、こういった。
「このテント、何かおかしいですね。隣のテントに、移った方がいいかもしれない……」

自分は、大賛成だったよ。
隣のテントで、何か起きている様子はなかったからな。
それで自分らは、隣のテントに移ったんだ。
確かに狭くはあったが、元のテントより、遥かに快適だったよ。
ぐっすり眠ることができたしな。

翌朝、わかったよ、自分が苦しめられたわけが。
自分らが、はじめに寝ていたテントを片づけているときだ。
テントの床になるシートをはいだときに、妙なものを見つけたんだ。
地面に、何か布きれのようなものが埋まっていた。

テントを張るときには、そんなものには気がつかなかったんだけどな。
なんだか気になって、掘り起こしてみることにしたんだよ。
掘っている途中で、気がついた。
それが、ジャンバーだってことにな。

もしかしてと思って、急いで掘ったんだ。
そしたら、案の定、予想通りだったよ。
そのジャンバーの近くには、白骨死体が埋まっていた。
自分には、男か女かわからなかったけどな、後で聞いたら、若い男の仏さんだったらしい。

自分らは、その遺体をそのままにしておいて、急いで下山して、警察に知らせたんだ。
それで、その河原からは、もう二体の遺体が発見された。
男の遺体と、女の遺体だったそうだ。
……自分が見た幽霊と同じ組み合わせだよな。

どう考えても、その遺体の幽霊だったに違いない。
そんなことがあったんだよ。
警察は、ここでキャンプを張っていて、何らかの事故で死んだんじゃないかっていっていたよ。

自分には、わかるよ。
なぜ、その人たちが死んだかってこと。
自分が夢で見た、あれだったんだよ。
増水でテントが流されて死んだんだ。
なんで、自分があんな夢を見たのかわからないけどな。

きっと、流されたときに岩にぶつかったんだろう。
あんなに血だらけになっていたってことは……。

それでな、葉子ちゃん。
その自分たちが見つけた死体なんだけど。
その死体が埋まっていたところってな、自分が寝ていたところの真下だったんだよ。
だから、あんな体験をしたのかな。

偶然かもしれないがな。
そういう話だ。
どうだい? 怖かったかい?
それじゃあ、これで、自分の話は、終わるぞ。
次は、誰だい?
葉子ちゃん。


       (四話目に続く)