晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>O8

なるほどな。
藤澤もな、同じことをしていたよ。
急に藤澤がぶつぶつ言いだしたからな。
ちょっとびっくりしたんだが、よく聞いてみるとお経を唱えているみたいだったんだ。

藤澤は、必死な形相でな、まるで鬼気迫る雰囲気だったよ。
藤澤は、もともと霊感が強くて、よく幽霊を見るっていっていたからな。
こんな時にどうすればいいのか、知っていたのかもしれない。
自分は、邪魔をしてはいけないと思ってな。
黙ってそのまま見ていたんだよ。

するとどうだ!
さっきまで、憎らしげに自分らを睨んでいた顔が、急に穏やかになっていってな。
最後には、至福の表情になって消えていったんだ。

自分は、安心したよ。
安心して涙が出たぐらいだ。
藤澤に聞いてみるとな、あんなに強い怨念を持った霊を見たのは初めてだっていっていたよ。
よく幽霊を見るっていっていた藤澤があんなに驚くぐらいだからな。

よっぽどのものだったに違いない。
きっと、この沢で事故にでも遭って、死んでしまった人たちの霊だったに違いないよ。
本当にそうなのかわからないけどな。
何となくそんな気がしたよ。

で、それからな。
そのテントで寝るのは怖いからな。
隣のテントにいって、事情を話してな。
ちょっと狭かったが、隣のテントで寝かせてもらったよ。
思い出すと怖くて、結局眠ることはできなかったけどな。

そんなことがあったんだ。
さあ、これで自分の話は終わりだ。
次は、誰にするんだい?
葉子ちゃん。


       (四話目に続く)