晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>U8

藤澤もそうだったんだ。
あいつも、涙を流しながらただガタガタと震えていたよ。
自分はな、とりあえずお経を唱えてみたんだよ。
よく知らないから、適当にな。
でもな、それが効いたのか、のぞき窓に映っていた霊は、スーッと消えていったんだ。

でも、いつまた出てくるかわからないだろ?
だから、自分らは急いでテントを飛び出し、隣のテントに駆け込んで、そこで寝かせてもらったんだ。
でも、思い出すだけで体が震えてな。
結局朝まで眠ることはできなかったよ。

そんなことがあったんだ。
でな、葉子ちゃん。
この話には、まだ続きがあってな。
その時の霊に関係している話だ。

自分が、あのころ住んでいたアパートだ。
そこの窓にな、出たんだよ、あの時の幽霊が!
あの時と同じ顔が、自分の部屋の窓に映るようになったんだよ、夜になると!!
自分は、怖くてな。

すぐにそこを引き払って、別の部屋に引っ越したんだ。
でもな、そこでも出るんだよ、その幽霊!
それから何度引っ越しても無駄だったよ。
その幽霊は、自分について来ているんだ。

友達の家に泊まりにいっても、そいつらはついて来るんだ。
もういい加減、自分は慣れてしまったがな。
慣れるまでが大変だったぞ。
毎日、怖くて眠れなかったんだ。
とうとう、まいってしまって、しばらく病院に入っていたこともある。

それでも、その幽霊はついてきたんだ。
夜になるとな、自分のベッドの横の窓に映るんだよ。
あの顔が……。

それで、自分があまりにも暴れるからな。
看護婦さんが、自分をベッドに固定してな。
動けなくされてしまったよ。
そのおかげで、慣れることができたんだがな。
がっはっはっはっは。

あっ! そういえば!
……哲夫おじさんは、何か大事なことを思い出したみたい。
「どうしたの? 哲夫おじさん」
私は、哲夫おじさんに聞いてみました。
……葉子ちゃん、この話をするときにはな。

一つ注意しなきゃならないことがあったんだ。
いうのを忘れていた……。
それは、この話を聞く人の後ろには、窓や鏡があってはいけないってことだ。
もし、この話を聞いている人の後ろに窓や鏡があると……。

そこに、あの幽霊が映ってしまうんだよ。
血だらけの三人の顔が……。
もし、この話を聞いた人がその幽霊を見てしまうと……。
ほら、後ろを向いてみなよ。
もしかしたら、窓か鏡があるかもしれないぞ。

………………………………。
どうしたんだい? 固まっちゃって。
もしかして、後ろに窓があるんじゃないのかい?
もしくは、鏡が……。
そしたら、大変だ。
そこには、映っているはずだ。
血だらけの幽霊が。

そこからじっと、背中を眺めているかもしれないぞ……。
がっはっはっはっは。
よかったな、葉子ちゃん。
葉子ちゃんの後ろには、窓も鏡もないみたいだ。
じゃあ、自分の話はこれで終わるが、葉子ちゃん。

もし、葉子ちゃんがこの話を人に聞かせるときは、さっきのことを忘れちゃいけないぞ。
大変なことになるかもしれないからな。
がっはっはっはっは。


       (四話目に続く)