晦−つきこもり
>三話目(鈴木由香里)
>Q6

「そういえば……」
記憶の彼方に、ぼんやりと浮かぶ風景がある。
どこか……、古い家の中みたい。
黄ばんだ畳や、飴色の柱。
ふと、見上げた天井には……。
「葉子、何か思い出せた?」

「ブランコ……」
そう、あれはブランコ……。
梁から下がったロープが、ゆらゆら揺れている。
「誰かが、ブランコで遊んでる……?」
でも、何でだろう?
ブランコのロープが一本しか見えない。

「ねえ、葉子。その人……、こーんな顔してなかったぁ?」
私の目に映ったのは……。
「きゃーーーーーっ!!」
口をカッと開け、苦しそうな……、恨みがましいような……、目を血走らせた由香里姉さんの顔。
その形相の凄まじさに、私は、とんでもなく大きな悲鳴を上げてしまったの。

……………………。
遠くなっていく意識の中で、私は考えてたの。
今の恐ろしい顔に見覚えがあるような……って。
でも、どこで……………………?

「葉子ネエ、また夢見てうなされてる」
……ふいに、誰かの声が暗闇の中に響いた。
「あら、いいじゃない? とっても、葉子ちゃんらしいと思うわ」
「どうせなら、もっと楽しい夢を見ればいいのに」

「でも、不思議だなぁ。死んでからも夢を見るなんて……」
目の前にぼんやりと浮かぶのは、死体のある風景。
和子おばさん、正美おばさん、由香里姉さん、哲夫おじさんに泰明さん。
小憎らしい良夫までも、みんなみんな、無残な姿をさらしてる。

どれくらい、こうしているのか……。
あの日、おばあちゃんの七回忌の夜から、ずっと、私たちの時間は止まったまま。
「七不思議なんてやるべきじゃなかったのかな……」
すでに白骨化してる泰明さんが、ぽつりと呟いた。

そうだった……。
あの夜、七つ目の話が終わった後、恐ろしいことがあって……。
私たちは、みんな死んでしまったんだ……。
他の部屋のことはわからない。
ただ、なんだか恐ろしいことがあった……。
恐ろしいことが何だったのか……?

私の頭じゃ、どうしても思い出せないの。
脳味噌が吹き飛んじゃって、ほんの少ししか残ってないんだもん。

「そうだなぁ、他にすることもないし、七不思議でもやろうか?」
私の見た、ブランコ……。
梁からぶら下がった、由香里姉さんが、歯をカタカタ鳴らしてる。
「そうねぇ、時間はたくさんあるし」
そして、再び私たちは、いつ終わるともない恐怖へ落ちていく……。


すべては闇の中に…
              終