晦−つきこもり
>三話目(藤村正美)
>P5
そうですわね。
彼女は間違っていたんですわ。
好きな人に振り向いてもらえないからと、悲観したことではありません。
そもそも彼女のような人が、恋をするというのが間違いなんですわ。
仕事の虫は、仕事だけしていればいいのです。
だから私、池波さんのところに行ったんですわ。
彼に恋人がいることも、あの日お見舞いに来る予定だったのも、知っていました。
せっかく現実を教えるのなら、うんとドラマティックに演出したいですものね。
タイミングはばっちりでしたわ。
……別に、彼女が嫌いなのではありません。
それでもやっぱり……目障りだったんですもの。
もちろん池波さんにも、個人的な恨みはありませんわ。
ただ、彼がああいう性格なのは、見ているうちにわかったんですの。
あんな冷酷な、思いやりのかけらもない男は、生きていても仕方ないじゃありません?
うふふ……まあ、計画通りってところですわね。
いっておきますけれど、誰かに話しても無駄ですわよ。
結果的には、私は何もしていないんですもの。
もしかしたら、今の話だって嘘かもしれませんわ。
どこにも証拠はないんですもの。
うふふ……。
あら、そんな顔をして。
嫌ですわ、すっかり本気にしてしまったんですわね。
私が、そんなことをすると思って?
冗談ですわよ、罪のない冗談……。
それじゃあ、これで話を終わることにしましょうか。
次の方の話を聞きましょう………うふふ。
(四話目に続く)