晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>A3

でも、その怪しさが面白いんだよな。
ひょっとして、ひょっとしたら、本物かもしれないもんな。
俺は、三百円をオヤジに渡して、小さなペンダントをもらったよ。
ところが、その帰り道だ。

歩いてたら、道路の向こうからトラックが走ってきたんだ。
通学路になるくらいだから、車が通ることなんて珍しいくらいの道なんだけどさ。
結構、スピード出してたぜ。
それがまっすぐ、俺に突っ込んでくるんだ。

俺はあわてて、脇の田んぼに飛び込んだよ。
その後ろを、トラックが走り抜けた。
命は助かったけど、体中どろどろだ。
何が幸運のペンダントだ!
むかついてポケットから出してみると、粉々に壊れてるじゃないか。

きっと田んぼに飛び込んだときに、ショックで壊れたんだ。
次の日、怒ってオヤジのところに行ったら、もういなくなってた。
いつもそうなんだ。
たった一日、しかも日が暮れるまでしかいなくてさ。

だから俺たち、謎オヤジって呼んでたんだ。
怒る相手がいなくなって、なんだか拍子抜けしたな。
でも落ち着いて考えると、ペンダントが身代わりになってくれたような気もしてさ。
ひょっとして、本当に幸運のペンダントだったのかもなんて、思い始めたんだ。

それからしばらくして、またオヤジが現れた。
今度は、透明な水槽を並べてたよ。
俺を見ると、ニカッと笑ってこういうんだ。

「幸運を呼ぶカブト虫は、いらないかい?」
…………なんだ、そりゃ。
アクセサリーならわかるけど、昆虫が幸運を運んでくれるって、どういう意味なんだ?
「カブト虫が、どうやって幸運を運んでくれるわけ?」

「それは企業秘密だな。自分で買って、調べてくれないと」
オヤジはそんなことをいって、ニヤニヤしてるんだ。
なんだかむかつくよな。
1.別にむかつかない
2.嫌な奴だと思う