晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>C8

やっぱり、卵のことはニワトリに任せるべきだよな。
明日になったら、早速持って行こう。
だけど、それまでは?
俺は考えたんだ。
それで、とりあえず服の中に入れてみた。

ここなら、体温で暖まるし、明日までは保ってくれるよな。
動きにくいけど。
でもまあ、これで幸運が訪れるっていうなら、ちょろいもんだ。
俺は、風呂にも入らないで、一晩中ずっと卵を暖めていたよ。
次の日、俺は変な音で目が覚めた。

いつの間にか、眠っちまったんだ。
変な音は、シャツの中からしてた。
覗いてみると、卵にひびが入ってるじゃないか!
やった、卵が割れる。
幸運が生まれるんだ。

俺は、わくわくして見守った。
ひびは見ている間にも、どんどん大きくなっている。
中から、何かが押しているように、カラが動き始めた。
ぱりん……。
とうとう、カラが割れた。
そして中から、小さな手が出てきたんだ。

続いて頭、体……驚いたことに、五センチくらいの小さな人間が、卵の中から出てきたんだよ。
そいつは体を震わせて、俺を見上げた。
ニッと笑ったその顔は、あのオヤジそっくりだったんだ。
俺があぜんとしている間に、そいつはピョーンと床に飛び降りた。

小さいくせに、ものすごいスピードでさ。
あっという間に走り去っちまったんだ。
姿を消す前に、こっちを振り向いたっけ。
にんまりと、オヤジそっくりの笑顔でさ。

そのオヤジはどうしたかって?
それがさ、あれ以来姿を見ないんだよな。
ぱったりと来なくなっちゃったんだ。
来たら俺、絶対文句いってやるのにさ。
だって、あの変な生き物が生まれても、幸運なんか手に入らなかったもんな。

俺が特別だなんて、適当なこといいやがってさ。
きっと、卵を暖めてくれる奴を、捜していただけなんだ。
カッコウって鳥がいるじゃん。
あれって、他の鳥の巣に卵を産んで、自分のひなを、その鳥に育てさせるんだって。

オヤジのやったことって、それと同じだよな。
……うん、そうだよ。
あれは、オヤジの卵だったと思うんだ。
自分の卵を、なぜかは知らないけど、俺に育てさせたんだ。
ちっきしょう、ふざけやがって。

あのオヤジの一族は、そうやって生きてきたんだろうな。
人間に見えたけど……何だったんだろう、あれ。
とにかく、俺の話は終わりだよ。
次の話は、誰がするわけ?


       (四話目に続く)