晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>D8

あ、知らないんだ。
あるんだよ。
だから俺、そこへ持って行って、卵をニワトリに抱かせることにしたんだ。
ニワトリなら、慣れてるはずじゃん。
大丈夫、一晩くらいなら、ばれやしないって。

持って行ってみたら、案の定、すぐに抱いてくれたぜ。
これで一安心だ。
もう放っておいても、勝手にふ化してくれるさ。
俺は安心して、一晩ぐっすり眠ったんだ。
次の日の朝早く、俺は卵を見に行ったんだ。

そうしたら……もう、ひびが入っているじゃないか。
ひびは、見ているうちに、どんどん広がっていくんだ。
やった、卵が割れる。
幸運が生まれるんだ。
俺は、わくわくして見守った。
中から、何かが押しているように、カラが動き始めた。

ぱりん……。
とうとう、カラが割れた。
そして中から、小さな羽根が出てきたんだ。
続いて頭、体……。
俺は目を疑った。
こんなことって、あるのかよ!?
卵の中から出てきたのは、小さな羽根を持ったひよこだった。

でも、見慣れた黄色い頭の代わりに、人間の顔がついているんだよ。
人面ひよこだったんだ!
俺、自分が見てるものが、信じられなかったよ。
こいつが、俺に幸運を呼んでくれるってわけ?

だけど、こんなヤツ…………どうやったら、母ちゃんに見つからないで飼えるだろう。
俺、マジで考えちゃった。
「なんてことを!」
突然、背後から声がした。
いつの間にか、オヤジが立っていたんだ。

どうして、ここがわかったんだろう?
でも、そんなこと聞ける雰囲気じゃなかった。
オヤジは、本気で怒っていたんだ。
「その鳥に、卵を暖めさせたんだな。君が暖めてくれれば、ちゃんと人の姿で生まれてきたのに!」

オヤジは素早く手を伸ばして、人面ひよこを奪った。
その瞬間、俺はひよこと目があったんだ。
ひよこの顔は、オヤジそっくりだったよ。
「君を信用した僕が、馬鹿だった。君にはあきれたよ!」

そう叫んで、オヤジは走って行っちゃった。
俺はポカンと口を開けたまま、それを見送ったんだ。
だって、それ以外何ができる?
今でもわからないんだ。
あれはいったい、何の卵だったんだろう。

オヤジは、俺に何をさせたかったんだろうな?
あれ以来、姿も見なくなったしさ。
きっとまた、どこかの学校の近くで、同じことをしてると思うけど。
とにかく、俺の話は終わりだよ。
次の話は、誰がするわけ?


       (四話目に続く)