晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>F8

よく、わかってるじゃん。
だまされてたまるかっての。
どうも、このオヤジは信用できないからな。
当然、断ったもんね。
そしたら、オヤジは急に怒りだしたんだ。
「ふざけちゃいけない。君は、この僕の親切を断ろうというのかい?」

俺びっくりして、後ろにさがっちゃったよ。
ものすごい剣幕だったからな。
「許せないな。君のような奴は、不幸になってしまうがいいさ!
もう、君はおしまいだよ。五十代続いた由緒正しい風間家に伝わる、スペシャルバージョンの呪いをかけたからね」

オヤジはさんざん叫んで、さっさと帰っちゃったんだ。
商売道具とか、全部置きっぱなしでだぜ。
呼び止める間もなかったな。
次の日見たら、いつの間にか荷物がなくなってた。
それだけの話だよ。

でも……それ以来、変なことが起きるようになったんだ。
ジュースを買おうとして、自動販売機に金を入れたのに、出てこなかったりさあ。
給食が俺の分だけ足りなかったり、体育で短距離走ってる最中に靴紐が切れたり、遠足の日に腹が痛くなったり。

これが、あの風間とかいうオヤジのいってた呪いなのかな?
だけど…………。
確かに不幸といえば、不幸だよな。
でも、そんなにたいしたことじゃない。
ちょっとついてないってレベルのことが、いくつも来るだけだ。

あのオヤジ、偉そうなこといってたのにな。
まあ、呪われるなんて、あんまりできない経験じゃん。
俺の友達にも、呪われてる奴なんていないしさ。
自慢できるから、まあいいかなって感じ?

これで、俺の話は終わりだよ。
次の人の番だぜ。


       (四話目に続く)