晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>C12

僕は奥に進んだ。
(廊下に出るのは危険だ………、これ以上、やられると………、殺される………)
そして僕はスタジオの明かりをつける。
スタジオの内部はさっきのスタジオとほぼ同様の構成だ。
ただここは主に声優などのアフレコに使う。

僕は周囲を見回した。
ここからは異臭の原因は見えない。
さらに奥に進んだ。
僕はガラス越しにスタジオの内部を見る。
そこには何かシートのようなものがあり、盛り上がっていた。
シートの下には何かがあるようだった。

(いったい何だ………)
僕は当惑する。
しかしスタジオを出るのは死にに行くようなものだ。
シート下を確認しようと、中に入って行くことにする。
(僕には後はない………)
そんな思いだけが体を動かしていた。

僕はシートの所に行くと、それを取る。
そのシートの下には死体の山があった。
僕は無意識の内に後ずさりする。
(まさか………、悲鳴を収録するために………)
そして僕の後退を壁が遮った。

(いったいどういうことなんだ………)
シートの下にある死体は、二十代前半の女性のようだ。
(いったいどういう女性達なんだ………)
進退窮まり、僕は呆然として時を過ごした。
考えも堂々巡りする。
僕は防音室を出た。

そして機材の前で、たたずんだ。
機材を前に立ちすくんでいると、ドアの開く音がした。
そして人影が滑るように入ってくる。
「か………、監督………」
監督だった。
彼は服が切り裂かれ、血に染まっている。

「見られちゃったね………」
不気味な笑顔を浮かべ、ゆっくり近づいて来た。
そしてスタジオの棚に手を掛けると、何かを手に取る。
(ナイフ………)
彼が手にとったものは、刃渡り三十センチはあるナイフだった。

そのナイフには、血がこびり付いている。
戦慄が走った。
「監督………………、止めて下さい………」
僕は後ずさりして、防音室の方に入る。
そして僕は壁際まで、追いつめたれた。
(お、終わりか………………)

もう逃げ場はなかった。
そう思ったときだ。
シートがずるずる引きずられる様な音がした。
しかし僕は監督から目を離すことはできない。
(いったい………)

僕は二つの恐怖に挟まれ、そしてまるでその二つが相殺されるように、冷静さを取り戻すことができた。
そして抵抗を試みることにする。
(よし………)
僕は体を奮い立たせた。
しかし、そのときだ。

監督の背後に、あの死んでいた女性たちが立ちすくんでいる。
僕はもう抵抗する気も失い、体は金縛りの様に硬直した。
彼女たちは徐々に近づいてくる。
そして監督の所まで来た。

彼はそのまま気を失った。
そして次の日、同僚に発見されそうだ。
同僚の男がそこに行ったときは、監督の姿はどこにもなかった。
女達の死体の中で、彼は気を失っていたらしい。
あの時の監督がその後、どこに行ったかわからないそうだ。

俺の話はこれで終わりだ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)