晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>D12

「大村さん、危ないですよ………」
僕は大村さんを止めた。
しかし、彼はそのまま部屋を出る。
僕は大村さんの後を追った。
廊下に出ると、大村さんは一歩一歩踏みしめるように歩んでいる。

僕は大村さんを見て取ると、彼の背後に付いた。
「大村さん、どこへ行くんですか………」
彼の背後で僕は囁くように、問いかける。
しかし大村さんの返事は無かった。

「彼女と話さなければ………」
大村さんは自分にいい聞かすように、そう呟くだけだ。
シーンと静まり返る廊下に悲鳴が轟く。
「か、監督だ………」
僕はそう叫んだ。
大村さんは、まるで予想したことのように歩みを続ける。

そして廊下の角に着くと、突然止まった。
そこには監督が倒れている。
まだ息があるようだ。
「おまえ、まさか………、あのとき………」
大村さんは監督の怪我が目に入らないかのように、問いつめ出す。

「あのとき、優子さんを殺したのは………」
監督の胸ぐらを掴み、声は怒りに震えている。
そのとき廊下の奥から、なま暖かい風が吹いた。
僕は恐る恐る振り向くと、そこには女の人影が立っている。

「優子さん………」
大村さんが彼女の名を呼ぶと、彼女の影は闇に消えた。
辺りに悲鳴が轟き、監督を襲った。
「監督………」
僕がそう呟くと、監督は床に崩れた。
そして辺りに轟いていた悲鳴は、空気に溶けるように消える。

大村さんは一言も言葉を漏らさず、呆然と立ちすくんでいた。

これで俺の話は終わりだ。
鈴木優子というのは、かつて大村さんの恋人だったそうだ。
当時、監督とかなり激しい奪い合いがあったようだが………。
まあこれは推測なんだけど、大村さんに気持ちがかたむいた優子さんを、監督が逆恨みをして殺害したということなんだと思う。

彼女が殺されたとき、なぜかは分からないけど、テープレコーダーが動いていた。
そして犯人である監督があの悲鳴を聞いたとき、彼女の怨念が甦ったんだ。
その後、あのテープを何度再生しても、あのときのように怪奇現象は起きなかった。

大村さんも、北田君も今もその仕事を続けている。
そして『最高の悲鳴』が必要なときは、あのテープを使っているという話しだ。
しかし、どういう神経しているのか分からないよな。
自分の恋人が死んだときの悲鳴を、仕事で使っているなんてさ。

じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)