晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>E12

「悲鳴が………」
僕は言葉を飲み込んだ。
(何か、心当たりがあるのか………)
そう思い、大村さんの後を追った。
僕が廊下に出ると、大村さんは廊下の角を曲がろうとしている。
大村さんの後を足早に追った。

「大村さん………」
僕は彼の背中に話しかける。
しかし、何の返事もなかった。
そして無言のまま、大村さんの後を追うと、彼は僕がさっきまで仕事をしていたスタジオに入る。
彼はおもむろに九ミリを操作すると、あのテープを再生した。

さっきは悲鳴の所しか再生しなかった。
(何が録音されているというんだ………)
僕はスピーカーから流れる何かを待つ。
しかし、しばらくして男と女がいい争う会話が流れ出した。
(監督………)

その男の方の声は監督の声のようだ。
(いったい、どういうことなんだ………)
そして女の許しをこう言葉の次に、あの『最高の悲鳴』が轟いたんだ。
大村さんの肩は怒りに震えている。

彼はデッキから、テープを取り出した。
そしてライターで火を付ける。
大村さんがそれを床に置くと、更に炎は激しく燃えさかった。
彼はその炎を愛おしそうに、見つめている。
(大村さん………)

大村さんはまるで宝物を燃やしているような、そんな顔にも見えた。
程なくそのテープは燃え尽きる。
「北田君、救急車だ………」
テープが燃え尽きたのを確認すると、大村さんは呟くように僕にいった。

僕は彼が何を行っているのか、理解するまでしばらくかかる。
そして僕は電話の所へ走った。

恐怖の夜はそれで終わったそうだ。
死者三名、負傷者五名ということだ。
もしあのとき、大村さんがテープを燃やさなければ、更に死者が増えたかもしれない。
あのテープの悲鳴の主は、大村さんのかつての恋人だったそうだ。

彼は当時の彼女に、あれ以上、人殺しをさせないために、テープを燃やしたらしい。
当時、監督とかなり激しい奪い合いがあったようだが……。
まあこれは推測なんだけど、大村さんに気持ちが偏った優子さんを、監督が逆恨みをして殺害したということなんだと思う。

彼女が殺されたたとき、なぜかは分からないけど、テープレコーダーが動いていた。
そして犯人である監督があの悲鳴を聞いたとき、彼女の怨念が甦ったんだ。
大村さんも、北田君も今もその仕事を続けている。

そして『最高の悲鳴』が必要なときは、あのテープを使っているという話しだ。
しかし、どういう神経しているのか分からないよな。
自分の恋人が死んだときの悲鳴を、仕事で使っているなんてさ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)