晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>O12

僕は何とか生きて、玄関を出た。
(ぼ、僕は助かったのか………)
まだ、実感がわいてこない。
僕は地面に座り込み、しばらく呆然とした。
(みんな………、死んだのか………)

静まり返っているビルを見ながら、そんなことを考える。
僕は立ち上がり、電話ボックスに向かう。
「もしもし、警察ですか」
そして警察に簡単に事件を説明すると、意識が遠退き、崩れるように床に倒れる。
恐怖の一夜は終わった。

彼は駆けつけた警察に発見された。
かなりの出血があったけど、直ぐに病院に運ばれ、命はとりとめたんだ。
しかし彼以外のスタッフは総て死亡していた。

警察では事務所荒らしか何か、変質者の犯行というせんで追ったようだけど、犯人は見つからなかったんだ。
えっ、この話かい。
その後、俺が北田君のお見舞いをしたとき、彼が独り言のように、この話をしてくれたんだ。
もちろん警察にも、この話はしたと思うよ。

でも信じるわけないよね。
彼は、今でも入院している。
まるで現実に戻るのを、拒否しているようだった。
お見舞いに行ったとき、彼のベッドの脇にあるテレビに、あの女優がちょっと映っていた。
『ドラマの制作中止したんですって』

『がんばって演技したのにショックですよ。結構、自信があったんですよ』
『残念だね。僕も見たかったよ』
彼女には平穏な日常が続いているらしい。

「悲鳴が聞こえる、悲鳴が聞こえる」
そういって、北田君はまだ悪夢にうなされている。
世の中はこんなものかもしれない。
俺はそう思った。
これで俺の話は終わりだ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)