晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>Q7

僕はその角を曲がることにした。
(か、監督………?)
監督と思われる人影が廊下に倒れている。
僕は彼の所に駆け寄った。
「か、監督………」
まだ息がある。

「あの悲鳴は………、大村………」
監督はそう言葉を絞り出すと、息を引き取った。
大村さんというのは音響部門のまとめ役だ。
僕は公衆電話を探す。
廊下の隅には、公衆電話の赤いランプがこうこうと輝いていた。

僕は立ち上がると、そこへ駆け寄る。
そしてポケットからアドレス帳を取り出すと、大村さんの電話番号を探した。
(あっ、あった………)
僕はプッシュボタンを押した。
『はい、大村です。ただいま………』
留守電だった。

(いったい、どうしたら………)
僕は当惑した。
受話器から録音の合図がなったときだ。
あの悲鳴が轟いた。
(や、やられる………)
僕は身構える。
そしてその悲鳴は受話器を破壊すると、消えていった。

僕は後先のことも考えずに走り出す。
そして何とか悲鳴に襲われることなく、その建物を出た。
僕は公衆電話を探して、警察に電話を掛ける。
警察にことの次第を伝えると、僕の意識は遠退いていった。

彼は電話ボックスに倒れているところを、駆けつけた警察に発見された。
ビルの中では多数の死体が発見されたんだ。
あのとき悲鳴の録音に立ち会ったスタッフだった。
生き延びた北田君は自分の体験したことを話したが、警察は信じなかったんだ。

まあ、当然といえば当然の話だけどさ。
結論的には、外部からの侵入者による殺人ということになった。
北田君はそのとき、犯人に襲われた恐怖で、混乱していたとね。
しかしこれには後日談があるんだ。

監督が名前を呟いた、あの大村さんが自宅で死んだんだよ。
あのビルで死んだみんなと同じように、何かで切り裂かれたような傷があった。
そして電話の留守機能の再生ボタンが、押された状態になっていたらしい。
もしかしたら、北田君が電話したとき………。

まあ、今となっては謎のままだ。
じゃあ、俺の話はこれで終わりだ。
次の人の番だな。


       (五話目に続く)