晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>R7

僕はスタジオに入った。
スタジオの中は、電気がついている。
(だ、誰かいるのか………)
悲鳴に襲われ、誰かが逃げ込んだんじゃないかと思った。
部屋を見回し、人影を探す。
しかしそこからは見えなかった。

僕は更に奥に進み、ガラス越しに向こうを覗く。
中は多くのものが置かれ、見通しが利かなかった。
僕は一人でいることへの不安から、人影を探し、中に入る。
「誰か、いるんですか………」
そう呟きながら、ゆっくり奥に進んだ。

すると物陰から人間の足が見える。
しかしそれは大人のそれではない。
そして更に足を進めると、赤いスカートが垣間見れた。
僕は唾を飲み込むと、更に奥に行く。
そこには女の子の死体があった。

女の子の様子を確認するまでもなく、死んでいると確信できる。
僕は呆然とその亡骸を見つめた。
(いったい、誰なんだ………)
物音がする。
僕の鼓動が高まった。
(誰か、いるのか………)
音がした場所を探そうとした。

しかし、体は金縛りにでもあったように動かない。
僕は床に張り付いたような足を上げると、物陰に回り込んでいった。
「か、監督………」
その女の子の亡骸の向こうに、監督がいた。

監督はその女の子の傍らにまるで土下座をするように、座り込んでいる。
「監督、これは、いったい………」
僕は彼に声を掛けた。
しかし、監督はまるで声が聞こえていないみたいに、泣きながらぶつぶつ呟いている。

「ドラマの、為、なんだ………、いいドラマを、完成させる、為、なんだ………」
僕は呆然として、彼を見つめた。
(もしかしたらあの悲鳴は………)
不気味な想像が頭を過ぎる。
(それにしても誰なんだ………)

女の子に視線を移しながら、そんな疑問が浮かぶ。
(あれ………)
定期入れが落ちていた。
僕はそれを拾うと、中を見た。
(えっ………)
そこには監督と、死んでいる女の子が仲良く写っている写真が入っている。
(まさか自分の娘を………)

僕は監督を凝視した。
彼は体を震わせ、まだぶつぶつ呟いている。
「監督………、あの悲鳴は、娘さんの………」
そう彼に声を掛けると、立ち上がり、そして走り出した。
「うわーーーーーっ」
彼はそう叫ぶと、ドアを激しく開け、部屋の外に走り出す。

監督が部屋の外に出ると、悲鳴が轟いた。
そしてそれと共に男の悲鳴がオーバーラップする。
僕は監督の死を確信した。
そして僕もゆっくり部屋を出る。
廊下には監督が倒れていた。
辺りは静まり返り、もうあの悲鳴は轟かない。

(彼女は………、あの娘は………、復讐を終えて………)
僕はしばらくそこにただずむと、そんなことを考えていた。
そして考えが一巡すると、公衆電話へ向かう。
「もしもし、警察ですか………」

これが俺が北田君に聞いた話だ。
まあ、後日談なんだけどさ。
その後、警察の調べであの女の子が監督の娘だとわかった。
彼は『最高の悲鳴』を収録するために、自分の娘を追いつめ、とうとう殺してしまったということだ。

監督はドラマ制作に熱心に取り組む人だったけど、家庭ではいい父親だったらしい。
いくら仕事熱心だったとはいえ、監督がどうして娘を殺してまで悲鳴にこだわったのかは、結局わからなかった。
まあ、俺の話はこれで終わりだ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)