晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>U5

僕はもとのスタジオに戻った。
(いったい何が起こっているんだ………)
あらためて考えた。
しかし何も考えが浮かばない。
僕はとりあえず、傷口を縛ると椅子に座った。
(あの………、あのテープはいったい何なんだ………)

テープを見つめ、そんなことを考える。
そして僕は立ち上がると、デッキの所へ行った。
(このテープが原因なんだ………)
僕はいわれのない恐怖に、怒りに似た感情がわいてくる。
そしてテープを取ると、それに火を付けた。

テープは悲鳴を上げ燃えていく。
まるでそのテープは生きている様だった。
そのテープが燃えつきようとしているとき、僕の意識も徐々に薄らぎ、床に崩れた。

これで恐怖の一夜は終わったんだ。
彼は次の日、出勤してきた同僚に発見された。
直ぐに病院に運ばれ、命はとりとめたんだ。
しかし彼以外のスタッフは総て死亡していた。

警察では事務所荒らしか何か、変質者の犯行というせんで追ったようだけど、犯人は見つからなかったんだ。
えっ、この話かい。
その後、俺が北田君のお見舞いをしたとき、彼が独り言のように、この話をしてくれたんだ。
もちろん警察にも、この話はしたと思うよ。

でも信じるわけないよね。
彼は、今でも入院している。
まるで現実に戻るのを、拒否しているようだった。
お見舞いに行ったとき、彼のベッドの脇にあるテレビに、あの女優がちょっと映っていた。
『ドラマの制作中止したんですって』

『がんばって演技したのにショックですよ。結構、自信があったんですよ』
『残念だね。僕も見たかったよ』
彼女には平穏な日常が続いているらしい。

「悲鳴が聞こえる、悲鳴が聞こえる」
そういって、北田君はまだ悪夢にうなされている。
世の中はこんなものかもしれない。
俺はそう思った。
これで俺の話は終わりだ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (五話目に続く)