晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>X4

へえ、俺はちょっと嫌だな。
まあ悲鳴で視聴率を稼げるなら使うけどね。
話を戻すけどさ。
そのドラマは無事放送されたんだ。
まあ、あれだけ苦労した悲鳴が、特に注目されるということはなかった。

しかしそんなある日、悲鳴についての問い合わせがあった。
『あの悲鳴はあの女優さんの声なんでしょうか』
妙な電話だった。
電話に出た男が気のいい奴というか、変に親切な男だったんで、丁寧に本当のことを話したそうだ。

しかもわざわざいろいろ調べて話したらしい。
そしてその男は丁寧に礼をいうと、電話を切ったそうだ。
しかしそれからしばらくして、残酷な事件が起き始めた。
あのドラマを作ったスタッフが、次々と殺されていったんだ。
体中を切り刻まれて、死体で発見されたんだよ。

二日おいて、一人、三日おいて、一人、そして、また、二日おいて、一人という感じだった。
北田君は恐怖に震えた。
仕事が終わっても、スタジオに鍵を掛けて閉じこもり、家に帰らなかったそうだ。

そしてとうとう、あのとき悲鳴のアフレコに立ち会ったスタッフで、生き残ったのは北田君一人になってしまったんだよ。
それからも、北田君はスタジオへ泊まり込む毎日だった。
しばらくは何事も事件はおきなかったんだ。

初めは北田君に同情的だった同僚も、何事もない日が続き、段々彼の行動を不審に思い始めていた。
彼は同僚からも、追いつめられていったんだ。
そしてそんなある日のことだった。
(もう犯人はあきらめたんじゃないだろうか………)

彼も何となく気がゆるんできたんだ。
まあ忠臣蔵の吉良の心理だな。
襲撃を待つ方が、こういう場合大変なんだ。
そしてその夜、彼は家に帰ることにした。
二ヶ月ぶりの帰宅だった。
しかしその夜、最後の殺人が起ころうとしていたんだ。

それは、家の近くの住宅街を歩いているとこだった。
彼の足音に合わせるように、後ろで足音が響きだしたんだ。
(だ、誰なんだ………)
北田君は恐怖におののいた。
そして彼の足は徐々に速く動き出し、そして走ったんだ。
後ろの足音は、彼の足音に合わせるように速くなってくる。

彼は無我夢中に逃げた。
そして徐々に、知らない道に迷い込んでいく。
彼は袋小路に追いつめられたんだ。
北田君は振り返った。
そこには不気味な男が立っていたんだ。
彼は大型のナイフを持ち、少しずつ近づいてきた。

「いったい………、お前は誰なんだ………」
北田君は喉から絞りだしたような声で、そう呟いたんだ。
しかし彼は何もいわずに、ゆっくり近づいてくる。
彼は自分の運命を悟った。

その晩、悲鳴を聞いた近所の人が警察に通報したんだ。
駆けつけた警察官は、道に倒れている北田君を見つけた。
すでに彼は息絶えていたそうだ。

そしてその傍らに、犯人と思われる男がたたずんでいて警察に連行された。
彼はここ数ヶ月の記憶が無く、精神鑑定を受けることになったそうだ。

あとは想像でしかないんだけど、彼はあの悲鳴の声の主の子供らしい。
彼の母親はある事件で殺害されたんだけど、その現場に赤ん坊がいたそうだ。
えっ、そうあの悲鳴は彼女が殺されるときのものだそうだ。

ただその想像があたっていたとしても、彼がその殺人現場にいたのは赤ん坊のときだからな。
母親の復讐というにしても、どうも理解に苦しむよな。
この事件は結局わからずじまいだったよ。
まあ、これで俺の話は終わりだ。


       (五話目に続く)