晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>Y4

そうだよな。
俺もそう思うよ。
鳥の声とかならともかく、出所も分からないし、何か不気味だよな。
まあ、話を戻すけどさ。
北田君は帰ることにしたんだ。
廊下はシーンと静まり返っていた。

あの悲鳴を聞いただけに、いつもの闇が不気味に感じられた。
彼は一歩一歩踏みしめるように廊下を進んだ。
「………おまえが………、殺す………」
微かに誰かがいい争っている声が聞こえてきたらしい。
彼はその方へ進んでいく。

「あの悲鳴はあのとき………、何て奴なんだ………」
いい争いの声は徐々にはっきり聞こえてきた。
(監督の声だ………、相手は誰なんだ………)
北田君は監督の声だと、確信した。
(OKを出してから様子がおかしかった………)

彼はあのときの監督の様子を思い出そうとした。
(あのときは、悲鳴に驚いていただけだと思っていたけど………)
そして考えがまとまらない内に、いい争っている部屋の前まで行ったんだ。
そこから、監督と、音響部門の大村課長の声が漏れていた。

(いったい何を争っているんだ………)
彼は聞き耳をたてた。
「優子が………、優子が殺されたときの悲鳴を、なぜ………」
監督は我を忘れて、怒鳴っていたそうだ。

「あんな悲鳴、二度と手に入らない。それに死んでしまったものは、しょうがないじゃないか」
彼は監督と課長は、昔、良く組んでいたことを思い出していた。

「………まさか………、まさか、あのときわざと………」
監督は涙声でそういったそうだ。
大村さんは黙ったまま、なにもいわなかった。
「何とかいえよ。大村」
監督は激しく問いつめたんだ。

「昔の話じゃないか、それに私が殺したんじゃない」
そして大村さんが激しくいい返した。
「貴様!」
監督がそう叫ぶと、大村さんの悲鳴が轟いた。
そして何かが崩れた音がしたそうだ。
彼はその場を去った。

その後、大村さんは行方不明になったそうだ。
これは北田君と酒を飲みに行ったとき、聞いた話だけど、本当のことかは分からない。
ただ噂では、あのときの大村さんの悲鳴が、そのとき制作中だったドラマに使われているという話だ。

監督は今も変わらず、熱心にドラマを作っているよ。
いつかもし大村さんが見つかったら、真相は明らかになるだろう。
彼は死体で見つかるか、生きているかは分からないけどね。


       (五話目に続く)