晦−つきこもり
>四話目(前田和子)
>N6

畳の下……。
ううん、いくらなんでもそれはないよね。
「葉子ちゃん、どうしたの? 畳なんて見つめて」
「あ、いえ……何でもないです」

「何、思い出したの? まさか、この下に宝を隠したのかい?」
泰明さんが、畳を指した。
「わかった、ちょっと待ってて」
え、ちょっと待ってよ。
何するの?

「泰明さん、畳の下なんて見れないでしょう」
「そんなことないよ。何か、棒ない? ああ、これでいいや。ほら、こうやって……」
「わあっ」
す、すごい。
畳って、めくれるんだ……。
泰明さんって、何でもできるのね。

「あ、葉子ちゃん、こんなものが……」
畳の下には、一枚の写真があった。
私の小さい頃の写真だ。
え、まさか、私がこれを隠したの?
よくこんなとこに入れられたわね。

それに、こんなのが、どうして宝物なのかしら。
「葉子ちゃん、裏に何か書いてあるよ。
えーと、『……いちばん写りがいいしゃしん。およめにいくとき持ってこう』
ははっ、かわいいな」
ええっ、私、そんなこと考えてたの?

「ま、とにかく戻ろうか。和子おばさんに報告しよう」
泰明さんに促され、寝室を出た。

「お嫁にいく時かあ……葉子ちゃん、これを一緒に隠した相手と、大きくなったら結婚しよう、なんていいあっていたのかもね」
うーん、だとしたら、やっぱり泰明さんとだろうな。
良夫となんて考えられないし。
哲夫おじさんもちょっとね……。

やだもう、どうしよう。
顔が熱ーい。
「和子おばさんー、宝、ありましたよ」
私達は、客間に戻ってきた。
「葉子ちゃん、
何を見つけたんですの?」
「あ、正美おばさん。実は……」

「葉子ネエ、早かったな。宝はどこだ? 山分けしようぜ」
うるさい、良夫。
子供は早く寝ればいいのに。

「ふふっ、葉子ちゃん、何を見つけたの? それ、良夫と一緒に隠してたのよね。畳を張り替えていた時、二人で入れていたでしょ」
和子おばさんが、覗き込んできた。
えっ、ちょっと待ってよ。
良夫と一緒に?

「さっきかあちゃんから聞いてさ、楽しみにしてたんだ。葉子ネエ、
何隠したっけ?」
「ええーっ、やだ、やめてよ!」
すごいショック!

「へへーん、取ったあ! ……あれ、何だこれ、写真か?」
「やだっ!」
「あっ、裏になんか書いてあるぞ!」
「ちょっと、勝手に読まないでよ!!」

良夫は、私の手をうまくすりぬけた。
「えーと、何なに……『いちばん写りが……』」
「良夫! いいかげんにしなさいっ」
和子おばさんが、良夫から写真を取り上げた。

「ありがとう、和子おばさん」
「はい、返すわね。ねえ、この女の子、誰?」
「えっ?」
「葉子ちゃんに似てるわね。中学生くらいかしら。年も同じくらいよね」
和子おばさんに見つめられる。
ちょっと待ってよ。

写真にうつっていたのは、小さい頃の私だったはず。
見ると、やっぱり小さい私が写っていた。
和子おばさん、どうしたんだろう。
写真を見つめながら考えてみた。
私の目には、小さい頃の自分に見える。

和子おばさんの目には、今の私くらいの女の子に見えている。
……そういえば、聞いたことがある。
写真にうつっている姿が、違うように見えることがあるって。
うつっている人の未来が見えたりするっていうけれど……。
和子おばさん、私の未来を見たのかしら。

……まさかね。
きっと見まちがえたのよ。
私は、みんなに写真の裏を見られないように、そそくさとしまった。
「ねえ、今の人、誰?」
和子おばさんが不思議そうにいう。
もう一度見たがっているみたい。

……そんなの駄目。
良夫に見られたら困るもん。
「いや、何でもないです。そうだ、お待たせしました。次は誰が話してくれますか?」
「葉子ー、何か隠してるな、後で見せてよね」
由香里姉さんが明るくいう。

「いやあ、葉子ちゃん。おじさんにも、後で見せてくれよな」
哲夫おじさんは放っといてと。
「…………」
泰明さんはニヤニヤしている。
う、ひどいっ。
「さあ、次の話にいきましょうよ」
正美おばさんが促した。

「葉子ネエ、後で見てろよ」
何いってるのよ、良夫。
とにかく、みんな、あらためて座りなおした。
その時、和子おばさんが、そっと耳うちをしてきた。

「ねえ、さっきの写真のことだけど。あれ、お芝居かなにかを写したの?」
えっ?
「ほら、葉子ちゃんに似た子がうつっていたやつ」
似た子じゃないわ。
あれは私よ。
今の姿を撮った写真じゃないけど。

和子おばさんは、本当に私の未来を見たのかしら。
「あの写真、どういうふうに見えました?」
なんとなく聞いてみる。
和子おばさんは、顔をしかめながらこんなことをいいだした。

「どういうふうにって……あれ、変な写真よね。葉子ちゃんに似た子が殺されているじゃない。
ねえ、お芝居の写真なんでしょう……?」


       (五話目に続く)