晦−つきこもり
>四話目(前田和子)
>Q6

「葉子ちゃん、早く戻ろうよ」
泰明さんが呼んでいる。
……まあいいか。
別に、たいしたことじゃないわよね。
私達は、もといた客間に戻った。

「それにしても、哲夫さんったら人騒がせよねえ」
和子おばさんは、あきれたようにいった。
「いやあ、すみません。でも、気味が悪いなあ。あんなところでいきなり転ぶなんて。ここだけの話ですが、下から何かに引っ張られたような感じがしたんですよ」

「やめてよ、おばけの仕業だとでもいいたいの?」
「うーん、何だろう。赤ちゃんの手のような感触があったんですが……」
「哲夫!! ばかなこというなよ!」
泰明さんが、いきなり声を荒げた。
一瞬、みんなが黙りこむ。

……泰明さん、どうしちゃったの?
「もう、哲夫おじさんったら、驚かさないでよ。それよりさあ、葉子達は宝を見つけたの?」
由香里姉さんが、その場を取り繕った。

「あっ、そうよね。あんた達、宝は見つけたの?」
和子おばさんがいう。
「いや、哲夫が倒れてたし。それどころじゃなかったですよ」
「それもそうね」
泰明さんと和子おばさんは、ちょっと苦笑した。
とんだハプニングだったわ。

……でも結局、私が隠した宝って何だったのかしら。
知りたいけど駄目ね。
もう少し探したいなんて、いえない雰囲気だもの。
まあ、いつかまたここに来て、探せばいいよね。
来年でも、再来年でもいい。
また泰明さんと一緒に……なんてね、きゃっ。

その頃の私は、どんなふうになっているのかなあ。
うふふ。
それにしても、さっきの泰明さん、ちょっと怖かったな。
なんかあるのかしら。
哲夫おじさんが転んだ辺りを調べたら、理由がわかったかも。
……なんてね。
いいや、次の人の話を聞こう。

私は、みんなを見回していった。
「それじゃあ、次は誰の番ですか……?」


       (五話目に続く)