晦−つきこもり
>四話目(前田和子)
>X6

それならいいか。
「哲夫おじさん、約束ですよ。
高い所を登る時は、後ろからおしりを支えて下さいね」
「葉子ネエ、
何いってるんだ?」
……良夫が割り込んできた。

「哲夫おじさん、そういうの、セクハラっていうんだぜ。知ってるか?」
「じ、自分はそんなつもりじゃ……」
「ははっ、良夫君に怒られちゃったな、哲夫」
泰明さんが笑う。

「…………」
あ、哲夫おじさんったら、傷ついてるみたい。
「あのう、とにかく行きましょうよ」
私は、哲夫おじさんと共に部屋を出た。

「おじさん、落ち込まないで下さい。こうなったらとことん付き合いますよ」
優しい言葉をかけてみる。
うーん、私って何者?
まあいいか。
……そして私達は、ありとあらゆる所を探検した。

屋根・縁の下・裏庭……。
「葉子ちゃん、なかなかやるな」
哲夫おじさんが、ニヤリと笑う。
私も、白い歯が光っているような笑みを返した。
そして夜がふけ……気がつくと、朝になっていた。

「哲夫おじさん、結局、何もみつからないんですけど」
「ああ、そうだなあ。でも葉子ちゃん。すべてがムダに終わったわけじゃないぞ。ほら、見てごらん、あの朝焼けを……」
「きれい……」

「そうだろう。こんな広い空を見ていると、人間なんてちっぽけな存在だと思うだろう。自分は、こんなひとときが大好きなんだ」
「わかります、哲夫おじさん。わかりますよ」
「葉子ちゃんも、これで立派な冒険家だね」

「哲夫おじさん……」
私達は、しばらく黙って見つめあった。
「あっ、あんた達、何をしてるのよ」
和子おばさんだ。
「なかなか帰ってこないと思っていたら……もしかして、一晩中探していたの?」
あきれたような顔をしている。

「私達も、ずっと怪談にあけくれていたんだけどね。あんた達は、もう寝たかと思っていたわ」
あ、しまった!
怪談をしていたんだった。
他の人の話を聞きそびれちゃったわ。
……でも、まあいいか。

この朝焼けに勝る収穫はないと思うし。
空の向こうに、冒険家・葉子の輝かしい未来が見えた気がした……。


すべては闇の中に…
              終