晦−つきこもり
>四話目(前田和子)
>AA9

す・て・き……。
とと、私ったら、何考えてるのかしら。
でも、さすがは哲夫おじさん。
男って感じよね。
「おいおい哲夫、あまり熱くなるなよ。葉子ちゃん、
困ってるんじゃないか?」
あ、泰明さん……。

いけない、私が好きなのは泰明さんだったわ。
「葉子ちゃん、もしかして鍵をかけているの?」
和子おばさんの声。
「鍵は左に引いて開けるのよ、間違えてない?」
……そういえば。
そろそろと、鍵に手をかける。
開いた!

さあ、これで……え?
何だろう。
視線を感じる。
何かが後ろにいるような……。
「きゃあああっ!!」
突然、何かに後ろから引っ張られた。
壁に頭をぶつけ、気が遠くなる。

「葉子ちゃん、
鍵、開いた?」
「かあちゃん、さっきそんな音がしたよ」
「よし、自分が開けよう! 葉子ちゃん、大丈夫かい?
……あっ!!」
みんなの声が小さくなる。
誰かが叫んでいる。

私はもう、何も考えられなかった。
この家には、本当に何かがいたんだわ……。
そうよね、古い家だもの。
ここで暮らした人や、死んだ人はたくさんいるわよね。
でも、どうして私をこんな目にあわせるの?

おばあちゃんの七回忌に、おもしろ半分で怖い話なんかしてたから?
過去の宝物なんか、見つけてる場合じゃなかった。
もう、明日はない……。
そんなことを考えながら、私は床に崩れ落ちた……。


すべては闇の中に…
              終