晦−つきこもり
>四話目(山崎哲夫)
>R4

がっはっはっはっは。
葉子ちゃんは、まだまだ自然の恐ろしさってものがわかってないな。

山で一番怖いのは、雨なんだ。
出発の時にどんなに晴れていようと、途中で雨が降り出すなんてことはザラだからな。
山の天気は変わりやすいっていうだろ。
空の一角にポツンと嫌な雲が見えるな……と思ってると、あっという間にどんよりした雲が空を覆ってるんだぞ。

場合によっては、すぐに霧が下りて来ることもある。

そうなるともうお手上げだ。
目の前が真っ白になって、一歩も動けなくなるからな。
その日も、自分が山を登ってる途中で雲行きが怪しくなってきてな、どうやら一雨来そうなヤバイ雰囲気になったんだ。

これ以上登り続けるのは危険だと判断した自分は、そこでコースを変更して下山することにしたのさ。
こういう時に、焦って下山するのはとても危険なんだぞ。
思わぬところでケガをしたり、事故に遭ったりするからな。
自分は、一歩一歩踏みしめながら山を下りたよ。

するとな……。
背後に人の気配を感じるんだ。
誰かが後からついて来てる……。
そんな感じだ。
だがな、振り返っても誰の姿も見えない。

気のせいかと思って再び歩き始めると、今度は、小枝や落ち葉を踏む足音が聞こえてくるんだ。
その足音は、自分から一定の間隔を保って、つかず離れず追ってくるんだぞ。
自分が立ち止まれば、足音も止まる。

自分が歩き出せば、また足音が聞こえてくる。
だが、振り返った時には誰もいない……。
どうだい、葉子ちゃん?
葉子ちゃんは、こんな体験したことないかい?
1.ある
2.ない