晦−つきこもり
>四話目(藤村正美)
>C3

そうなんですのよ。
この人は、病院に何をしに来たのかと思いましたわ。
一度、そういってやったことがあるんですの。
そうしたら、なんて答えたと思います?

「僕は、君への恋の病に、冒されているのさ」
…………ですって。
あっ、笑いましたわね。
今、笑ったでしょう。
無理もないですわ。
怒っていた私も、つい笑ってしまったんですもの。

たぶん、何をいわれても、全然応えない人なんでしょうね。
それからは、もう何もいう気になれなくて。
誰もが同じ思いだったらしくて、風間さんには何もいわなくなったんですの。
だから、今でも風間さんは入院中ですわ。
どこが悪いのかは知りません。

医師が回診に行っているかどうかも、わかりません。
でも、彼が入院してから、もうすぐ二年です。
今じゃもう、立派に主ですわ。
相変わらず病院食に文句をいい、新人の看護婦に声をかけて、毎日を過ごしているそうです。

きっと、病院に飽きたら、退院してどこかへ行くんじゃないでしょうか。
……嫌だわ、こんな話をするつもりじゃなかったのに。
ごめんなさいね。
でももう、頭の中が風間さんの奇行でいっぱいですわ。

これ以上話しても、彼がいかに変な人間かということしか、説明できないと思います。
本当にごめんなさい。
こんなはずではなかったんですけれど。
怖い話は、次の方に期待しましょうか。


       (五話目に続く)