晦−つきこもり
>四話目(藤村正美)
>F4

当然ですわね。
もちろん、和田さんも嫌がりましたわ。
「やめてくださいよ。その前に、何の病気なのか教えてください!」
彼がきっぱりいうと、先生は肩をすくめました。

「凡人は、ささいなことにこだわるなあ。天才の僕が病気といったら、それでいいじゃないか」
「冗談じゃありません! 説明してください」
和田さんがいい募ると、先生の表情が、不意に引き締まったのです。

「しょうがない。できれば、内緒にしてあげたかったんだが……」
深刻ないい方に、和田さんはギクリとしたようでした。
彼の胸の中には、不安が渦巻いていたのでしょう。
何か、とても重い病気なんだろうか?

聞かない方がいいような……。
けれど、彼が止める間もなく、先生は重々しく口を開いたのです。
「君の病気は…………水虫だ」
「……はあ?」
「水虫といっても、馬鹿にしちゃいけないよ。君の水虫は、終末兵器ともいえる水虫なんだ。これは、某国が開発したウイルス兵器との説もあって……」

そのとき、しゃべり続ける先生をさえぎって、遠慮がちに和田さんが口を挟みました。
「あのー……水虫って、カビの一種じゃなかったですか?」
先生は、また肩をすくめましたわ。
「まあ、そういう説もあるね」

「僕をからかったんですか!?」
和田さんは、声を荒げました。
それでも、先生はお構いなしという感じでしたわ。
「君の医学的知識を、試させてもらったのさ。君の本当の病気はね、ウドンコ病だ!」
「…………それって、植物の病気ですよね。葉っぱに白い粉がつく……」

先生は、大きな身振りで手を叩き始めました。
「みごとだ。みごとな知識だよ、和田君。君になら、病名を明かしてもよさそうだ」
和田さんは疲れたように、枕にもたれかかりました。
「お願いしますよ。話してください……」

「ああ、いいとも。教えてあげるよ。君の病気は……」
先生は、和田さんの方に身をかがめました。
物陰から覗いていた私も、耳を澄ませましたわ。
静かな病室に、先生の声が低く響きました。

「虫歯なんだ……!」
続いて、重苦しい静寂が部屋を満たしました。
のしかかってくる沈黙を跳ね返すかのように、和田さんが固い声でいいましたわ。
「もう、いいですよ……。疲れたんで、寝かせてもらえますか」

賢明だと思いましたわ。
このまま話を続けても、この人が、まともな話をするとは思えませんもの。
ところが、先生は首を横に振ったのです。
「いや、駄目だ。君には、この注射が必要なんだ」

そういって注射器をかざすのですわ。
和田さんは、脚をギプスで固定されています。
このままでは、得体の知れない注射をされてしまいますわ。

こんなとき、葉子ちゃんならどうします?
1.止めに入る
2.もう少し様子を見る