晦−つきこもり
>四話目(前田良夫)
>A2

ふーん、そっか。
俺も好きだよ。
……何だよ、その顔!
ざけんなよ、嘘じゃないってば。
勉強はやだけど、友達がいるもんな。
だから、学校に行くのは、そんなに嫌じゃないんだ。

ううん、嫌じゃなかったはずなんだけど……。
うちのクラスに、転校生が来てさ。
長くてサラサラの髪した、色の白い、でっかい目の女子だった。
ワンピースなんて着ちゃってさ……うん、まあブスじゃなかったけど。

先生に連れられて来たとき、クラス中がザワザワしたもんな。
「園部茜です」
そういって自己紹介した声も、アニメの声みたいなんだ。
俺、江藤って友達がいるんだけどさ。
そいつなんか、俺の肩バシバシ叩いてさ。

「やりい。超美人じゃーん」
とかいうんだぜ。
俺、思いっきしバカにしてやった。
髪の長い女なんて、やだもん。
何か、弱っちそうで、すぐ泣きそうじゃん。
そいつは、すぐみんなと仲良くなっちゃったよ。

父ちゃんが学者で、あとを継ぐために私立に行ってたんだって。
そういわれりゃあ、勉強できるやつでさ。
おまけに徒競走やったら、もうダントツで一等だし、歌もうまかったんだ。
それで、やさしいんだよな。

いつもニコニコしててさ。
クラスの金魚の世話を、当番がサボったときなんか、代わりに世話してたよ。
「いいの。私、こういうこと好きだから」
なんちゃってさあ。
それが、かっこつけてるとか、いい子ぶってるとかって感じじゃないんだ。

そういえば、上履きが間に合わないってんで、前の学校のヤツをはいててさあ。
うちって、男子が青で女子が赤じゃん。
それが、一人だけ目立つ真っ白なの。
普通そんなヤツがいたら、いじめにあうんだけどな。

園部だけは、そんなことなかったなあ。
あんな奴、それまで見たことなかった。
園部茜のこと、俺がどう思ってたか、わかる?
1.何か裏があると感じていたと思う
2.本当は好きだったんじゃないかと思う