晦−つきこもり
>四話目(前田良夫)
>B7

…………そっかあ。
よかった、俺だけじゃなくて。
俺もそうしたんだよ。
江藤を、非常口の前まで連れてってさ。
園部が作ったっていったら、喜んでもらってくれるんだもん。

「超ラッキー! いただきまーす」
そういって包みを開けると、紙のカップに入ったケーキだったよ。
江藤はガブッと食いついた。
「うめえ! うめーよこれ、ホントに……」
いいかけた言葉が、途中でピタッと止まった。

「うう……」
口の中にケーキを詰め込んだまま、今にも飛び出しそうな目で、こっちを見てる。
「げふっ!」
初めは、のどに詰まったのかと思った。
だけど、江藤はケーキのかけらと一緒に、真っ赤な血を吐いたんだよ!

「わああっ!」
血は、バシャバシャと床に落ちた。
俺はあわてて飛びのいたよ。
必死に口を押さえてる手のすき間から、まだボタボタ血が垂れてる。
体中の血が、全部、流れちまいそうな感じだった。

「うう……う……」
江藤は、ヨロヨロとひざをついた。
そのとき、俺の後ろで、ハッと息を飲む声が聞こえたんだ。
振り向くと、園部茜がいた。
でっかい目を、もっと大きく見開いてた。

俺にはわかったぜ。
園部は、俺に毒入りケーキを食わそうとしたんだ!
俺が秘密を知ったから。
園部が魔女だって、知っちゃったから!
そう思ったら、腹の底から、ムカーッと怒りがわいてきた。

「てめえ、園部! よくも!」
「ち……違うわ!」
園部は叫んで、走り出した。
何が『違う』だ。
白々しいにも、ほどがあるぜ!!
園部はどんどん、階段を駆け上がってく。
それが、メチャクチャ速えんだよ。

俺も必死で追いかけたけど、あっという間に引き離されちゃってさあ。
四階まで上ったときには、園部が見えなくなってたんだ。
だけど、今日こそは追い詰めてやる。
あの魔女を、やっつけてやらなきゃ!

園部が行った先は、大体わかってる。
長くのびてる廊下か、屋上へ続く階段か、どっちかしかないんだ。
魔女は、どっちへ行くと思う?
1.階段
2.廊下