晦−つきこもり
>四話目(前田良夫)
>K8

駄目だな、葉子ネエ。
そういうタイプが、危険に気づかないで一番に死ぬんだぜ。
何日か、たってからのことだったな。
学校帰りに、園部を見かけたんだよ。
ほかの女子と一緒に、道ばたで何かを見てた。

それがさ、何だったと思う?
箱に入った子猫だったんだ。
きっと誰かに捨てられたんだろうな。
「やだ、かわいそう」
「ひどいよねえ、こんなに可愛いのに」
女子たちは、てんでにそんなことをいってた。

だけど園部だけは、思い詰めたような顔で子猫を見てたんだ。
俺、何となく予感がしてさ。
こないだ見た、墓場の奥の、山の広場に行ってみたんだ。
しばらく待ってたら、やっぱり園部が来たぜ。
子猫の入った箱を抱えてさ。

隠れて見てたら、また穴を掘り始めるじゃないか。
それから、穴の中に、箱ごと子猫を入れようとしてるんだ。
「バカ、何してんだよ!」
俺、思わず叫んじゃった。
園部はハッと振り返って、俺を見たよ。

ついてきたのがバレちゃったけど、もう後には引けないじゃん。
「子猫、殺す気かよ!」
そういったら、園部…………笑ったんだ。
「邪魔しないで」
突然、体が動かなくなった。

「私は一週間に一度ずつ、他の者の命を奪わなきゃならないの。
それが、私が生まれたときの契約なんですって」
園部は笑いながら、俺の方へ歩いてきた。
「子猫を死なせたくないのなら、代わりに前田君が
殺されてくれる?」
見開いた目が、俺を脅してた。

殺されたくなければ協力しろ……って、いわれてるような気がしたんだ。
こいつ、本物の魔女だったんだ!
だから……だから俺、うんっていっちゃった。
しょうがないよな……。
良夫は、本当に怖がっているみたいだった。
でも、まさか。

私たちを、だまそうとしているんじゃないかしら。
「じゃあ良夫君は、他の者の命を奪う手伝いをしているんですの?」
正美おばさんが、冷静な声で聞いた。
おばさんも、きっと同じことを考えたんだわ。

「うん……ラッキーなことにさ、奪う命は、何でもよかったわけ。
だから虫とか、魚とか……ちっこいヤツは、その分、量が必要らしいけど」
淡々としゃべる良夫の表情に、いつものふざけた様子は見えない。

「冬、虫が捕まんなかったときは、アセッたなあ。せっかく助けた子猫も、もう使っちゃってたしさ。
しょうがないから、ハムスターのチビを使ったんだぜ」
「何だって、良夫っ!?」
和子おばさんが、あわてたように声をあげた。

そういえば、前に来たときに、ハムスターのケージを見たような気がする。
良夫は、飼ってたペットまで殺したの?
私の視線に、気づいたらしい。
良夫は、手を振ってみせた。
「大丈夫だよ、もう暖かくなったから。しばらくは、また虫とかを使おうと思ってさ」

あっけらかんという良夫は、悪いことをしていると思っていないようだ。
良夫の方こそ、魔女……ううん、悪魔なんじゃないかしら!?
「じゃあ、次の人の話を聞こうよ」
いつもと変わりなく、良夫はニッと笑った。


       (五話目に続く)