晦−つきこもり
>四話目(前田良夫)
>M5

…………葉子ネエ、それギャグ?
鳥の足に、羽なんか生えてるかよ。
胸の毛だよ、胸の。
でも、なんでそんなものが、園部の爪にはさまってんだ?
不思議に思ったけど、泣いてる女子に、そんなこと聞けないじゃん。

そのまんまになっちゃったんだよな。
次の日は、もう大騒ぎだった。
朝礼で、校長先生が気にするなっていってたけど、しないわけないじゃん。
その日は、誰も授業なんて聞いてなかったもんな。

放課後になったら、みんな、さっさと帰っちゃった。
俺も帰ろうとしたんだけど、校庭で園部を見かけたんだよ。
近寄っちゃいけないっていわれた、例の檻の影で、しゃがみ込んでるんだ。
もしかして、気分悪くなっちゃったんじゃないか?

俺、見に行ったんだ。
近づくと、園部の声が聞こえた。
「これで安心よ……もう大丈夫よ……」
足元にいる何かに、話しかけてるみたいだった。
だから、何がいるのか見てみたんだ。

……初めに見えたのは、地面に散らばってる羽根だったよ。
それから、その羽根についてる赤い血と、園部の手に握られてる果物ナイフ。
俺が来たことにも気づかないで、園部はじっと下を見てた。
その足元には……切り裂かれて内臓を引き出された、小鳥たちが転がってたんだよ!

「前田君……見たのね」
園部がこっちを向いて、立ち上がった。
「この子たちったら、世話してる私をつつくのよ。きっと、何か悪いものがとりついてるんだと思うの」
変に静かな声でしゃべりながら、あいつは近づいてくるんだ。

「だから、悪魔ばらいをしてあげてるの。これを塩で清めれば、おしまいよ」
ニッと笑って、あいつは、真っ赤な内臓を持ち上げてみせたんだ。
「こっち来んなよっ!」
俺、思わず叫んじゃった。

園部の顔が、ぎゅっと怖くなった。
「何を怖がってるの? これは大事な儀式なのよ。怖がってる場合じゃないでしょ。それとも……」
あいつのナイフから、血がポタポタ落ちた。

「あなたも悪魔だから、悪魔ばらいを怖がるのかしら。そうなんでしょう!?」
叫びながら、園部が飛びかかって来た!
振り回したナイフが、俺の十センチ前を通りすぎる。

「あんたもはらってやるわ! 塩で清めてあげる!!」
園部は、そういいながら近づいて来るんだ。
冗談じゃないっての!
俺だって死にたかない。
夢中で反撃に出たよ。
それで……ハッと気がついたら、俺は園部の上に、馬乗りになってた。

園部は、俺をものすごい目でにらんだよ。
「また私の負けね。くやしいわ!」
そういって、ナイフを高く上げた。
やばい!!
だけど次の瞬間、園部は自分ののどに、ナイフを突きたてた。

バシュッと血が吹き出した。
その血も、すぐ側にいた俺まで跳ね散る前に、消えちまったんだ。
……おかしなこという、と思ってるだろ。
でも本当なんだ。
同時に、俺の下にいたはずの園部の姿も、スーッと消えちゃった。

それだけじゃなくて、落ちてた小鳥の死体まで、なくなってるんだよ!
一体、何が起きたっていうんだ!?
あんまり不思議だったからさ、ちょっと調べてみたんだよ。
そしたら、八年くらい前、うちの学校で事件が起きててさあ。

『悪魔ばらい』ごっこをしてた生徒が、心臓マヒで死んだんだって。
噂だと、つぶれたカエルの内臓を、いやがるその子の顔にムリヤリ押しつけた……らしいぜ。
『悪魔ばらい』って名前の、いじめだったんだよ。

死んだ女の子は、元々心臓が悪かったらしいけどさ。
そんなんで死んだら、くやしくて、成仏なんかできないよなあ。
……園部?
ああ、次の日から学校には来なくなったよ。
なんとなく予想してたけど、クラスのやつも先生も、誰もあいつのこと、覚えてなかった。

園部茜って幽霊だったのかなあ。
ずーっと、あんな風に一人で、『悪魔ばらい』を続けてるのかもしれないな。
なんだか……かわいそうな気もするよな。
……………………………………。
この話は、これでおしまいだよ。
次の話を聞こうよ。


       (五話目に続く)