晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>B4

当たりだ。
「やるから、どっかいけ!」
彼はそう叫んだんだ。
その宇宙飛行士は冷静さを失っていた。
すると窓の向こうにいた光の人影はフッと、彼の近くに近づいてくる。

そして視界から消え、彼は自分の乗っている宇宙船に取り付いたように感じた。
そうしたら、急に息苦しくなってくる。
船内の気圧計を見ると、どんどん目盛りが下がっていた。
空気がどこかに消えている、そんな感じだったそうだ。
(俺は、死ぬのか………)

彼は言葉を振り絞って、家族の名前を叫んだ。
それは、家族に対する別れの言葉だった。
しかし彼が、もう駄目だと思ったときだ。
『すまない、君にも家族がいたんだね………』

そんな声が聞こえると、徐々に気圧計の目盛りが高まってくる。
窓の外の光り輝く人影はフワッと消え、幽霊船も闇の中に溶けるように去っていったんだ。
そして彼は無事に帰還した。
後に彼はその幽霊船について調べたらしいんだ。

公式には、1961年に当時のソ連が人工衛星を打ち上げたのが、最初ってことになっているけどさ。
第二次大戦中のドイツで、既に有人ロケットが打ち上げられていたことが解ったんだ。
信じられるかい。
そう、俺達も信じられなかった。

しかし、各国の有人衛星に、その幽霊船が目撃されているんだよ。
もちろん、広い衛星軌道で偶然出会う確率なんて、ゼロに近いことなんだけどさ。
何かの力が働いて、その幽霊船の軌道がずれるって話しだ。
それに、もう五十年以上前のものだからさ。

もし事実だとしても、大気圏のもくずと消えてもおかしくないという話だ。
調査によると、打ち上げられたのはドイツが降伏する寸前の話らしい。
降伏後、軍事機密と共に、その事実は抹消されたんだ。
彼等は、今も宇宙を回り続けている。

そしていつか、また誰かがそいつらと出会うんだ。
宇宙なんて、亡霊なんかとは何の関係もない世界だと思っていたけど、そうじゃないって、思い知らされたよ。
これで俺の話は終わりだ。
じゃあ、次の人の番だな。


       (六話目に続く)