晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>C4

当たりだ、
「空気は一人分しかないんだ!」
彼はそういったんだ。
しかしその声は、なお続いた。
『空気、わけてくれよ………』
その声は何度も、何度もそういったんだ。
そしてその光の人影は宇宙船の周囲を漂いだした。

もう彼は祈るしかない。
彼は目を閉じ、祈った。
(神様………)
しかしその重苦しい声はとまらない。
そして彼は息苦しさを感じだした。
彼は目を開け空気圧計を見る。
しかし計器は正常だった。

(いったいどういうことなんだ………)
彼は何か、助かる方法がないのか考えた。
そして通信機を手にした。
しかし通信はできない。
「くそっ!」
彼はコックピットに行く。
計器は正常だった。

そして彼は宇宙服を着て、椅子に座る。
宇宙服では、正常に呼吸ができた。
(いったい、何が起こっているんだ………)
地球への帰還は、まだ先だ。
この宇宙服の空気は、それまで持たない。

船外を見ると、光はまだ漂っている。
(宇宙に幽霊がでるなんて………、そんなことあるわけない………)
彼は事態を見守るしかなかった。
そして地球の景色や、家族を思い出していたんだ。

すると船外の光はスーッと、消えた。
彼は唖然として、船外を見る。
(助かったのか………)
そして彼は安堵して、椅子に体を沈めた。
(何だったんだ………)
船外は、まだ真っ暗だ。
(単なる影なのか………)

彼はコックピットを出て、さっきの窓を見ようと思った。
しかし、コックピットのドアを開けたときだ。
そのドアの向こうに、光る人影がいたんだ。
彼の体は硬直した。
『やあ………』
姿ははっきりわからなかったが、それは人だと確信したんだ。

「き、君たちは………」
彼はやや冷静さを取り戻し、そう声を掛けてた。
『俺達は………………』
その光る人影は、自分達のことを語ったんだ。
過去の宇宙開発競争の被害者だった。

宇宙飛行中の事故で地球に帰還できず、空気が無くなり死んだ宇宙飛行士だった。
彼にとっても、人事ではない。
そしてつい、こういったんだ。
「一緒に、帰りましょう」
すると光の人影は口々に礼をいうと、スーッと消えた。

そして光の影のいた所には、どこの国のものかもわからない認識票があったんだ。
彼は何ともいえない気持ちだった。
そして彼は、予定通り地球に帰還したんだ。
地球に戻った彼は、あの認識票を頼りに遺族を探した。

彼は苦労の末、彼等の遺族にそれを渡したんだ。
遺族は涙を流して、感謝したということだった。
これが彼が語ったことの総てだ。
怖くないけど、不思議な話だろ。
まあ、俺の話はこんなところだ。


       (六話目に続く)