晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>D4

そう、当たりだ。
「空気がなければ俺は死んでしまう!」
彼はそういったんだ。
しかしその声は、とまらなかった。
そして彼は、息苦しさを感じだしたんだ。
気圧計を見ると、その針は徐々に下がってくる。

彼は地球のセンターに、連絡をとることにした。
地球のオペレーターは、この非現実的な話を冷静に聞く。
そして、善後策を検討するといって、通信をたった。
一分が一時間にも感じる時間が、経過していく。
その間、あの声は絶え間なく続いていた。

それからしばらくして、センターから連絡が来た。
精神科の医師のようだ。
その医師は、彼にいろいろな質問をした。
彼はなるべく冷静にその声に答える。
精神科の医師は一通りの質問を終えると、オペレーターに代わった。

そして地球への、帰還準備に入ったんだ。
彼は宇宙服を着ると、コックピットに座った。
光は彼の乗る宇宙船の周りを漂っている。
とにかく待つしかなかった。
オペレーターによると、地球への再突入は8時間後だ。

気圧計を見ると、針はゼロを指していた。
彼は空気の消費を押さえるため、なるべくジッとすることにする。
(空気の量は、ギリギリだな………)
そのとき自分の呼吸音が、やけに大きく聞こえた。

そしていつもより、むしろ呼吸が速くなっている感じだった。
時間の経つのが、いつもの十倍も長く感じる。
スピーカーからは、地球からの激励のメッセージが流れ続けた。
彼は熱い思いがこみ上げたそうだ。

そしてそんな時間を過ごし、大気圏突入の時間が迫ってきた。
だが空気が大気圏突入までは持ちそうになかったんだ。
(もう、駄目か………)
地球からは、船内に空気がある可能性のある場所を連絡してきた。
しかしそこにあるはずの空気は、みんな無くなっていたんだ。

彼はそのことをセンターに知らせた。
センターのスタッフは、それでも諦めずに彼の生存の可能性を探る。
そして付近を通過する、対立する国の有人衛星の存在を告げたんだ。
(あの国の衛星では………)

その連絡は、彼の救いにはならなかった。
地球では、必死の外交交渉が続いているらしい。
彼はそれだけで、満足だったんだ。
「ありがとう………」
そして彼はマイクに向かってそういったとき、船外の光が突然消えた。

(どうしたんだ………)
安心より、そんな疑問が先に起こる。
しかし疑問に終止符を打つ連絡があった。
「喜んでくれ、有人衛星が救出してくれるそうだ」
奇跡が起こった。

何時、戦争が起きても不思議ではない敵国の有人衛星が、救出を了解してくれたんだ。
それも軍事機密である衛星に、敵国の人間を受け入れてくれたんだよ。
程なく、彼はその有人衛星に収容された。
そして彼は衛星の乗組員に、感謝を述べたんだ。

有人衛星の乗組員も、暖かく迎えてくれた。
そのとき、その衛星の中が急に明るくなる。
(この衛星にも、あの光が………)
彼は衛星の乗組員を巻き込んだことを、後悔したんだ。
そして光は徐々に固まりになり、人のような形になった。

「君には、いい仲間がいるんだね………」
そういうと、空間に溶けるように消えた。
彼等のいた場所には、古い認識票が落ちている。
「彼等は………」
そしてその宇宙飛行士は無事に帰還したんだ。

あの声の主が何者なのか、いったいどうして、あの衛星が襲われなかったのかはわからない。
結局、あの事件は謎のままだ。
いずれこの問題について、別の宇宙飛行士を取材したいと思う。
また何かわかったら、今度教えるよ、ははっ。


       (六話目に続く)