晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>L5

へえ、葉子ちゃんは現実的だな。
まあ俺もそう思ったよ。
そしてしばらくして、教授の調査報告が上がってきたんだ。
報告書を見て、俺は愕然とした。
その子の体の構造は、人のそれとは大きく違っていたんだ。

俺達はあらためて、そのデーターをとった子供の取材をすることにした。
もちろん、俺も同行することにしたんだ。
途中で、そこの子の病気を見つけた怪奇現象マニアの人と待ち合わせて、その家に向かったんだよ。

取材先は地方の普通の家庭だった。
沢田さんがチャイムを押したが、その家はひっそり静まり返り、返事はなかった。
「沢田さん、連絡は入れたんですよね………」
俺は沢田さんに、そう聞いてみた。

「ええっ、昨日も確認の電話を入れたんですが………」
沢田さんは不思議に、そう答える。
俺達は取り敢えず、待つことにした。
しかし何時間待っても、帰ってくる様子はなかったんだ。
辺りは日が傾き、かなり暗くなってきている。

「沢田さん、今日の所は引き上げませんか」
俺は帰ってくる様子がないので、沢田さんにそういった。
沢田さんは残念そうな顔をしたが、首を縦に振る。
そして俺達は機材を片付けようとした。
するとスタッフの一人が叫んだ。

「泰明さん、窓に光が!」
一同は彼の視線を追った。
確かに窓ガラスにうっすら光が映っている。
そして光は徐々に消えていった。
「誰か居るんじゃあないですか」
沢田さんは少し明るくそういったんだ。

彼は玄関の扉の所に行き、ノブを取った。
「真田さん、ドアが開いてます………」
彼は当惑した顔をして、そう呟いた。

すると怪奇マニアの男は、ドアを開けると家の中に入って行ったんだよ。

俺達は少し躊躇したけど、彼のあとに続くことにした。
彼は家主の名前を呼びながら、どんどん奥に進んで行く。
そして突き当たりのドアを開けたときだ。
突然、鈍い音がして、先頭の怪奇マニアの男が倒れた。
みんなは金縛りにあったように、その場に立ちすくむ。

俺はドアの向こうを見た。
そこのはこの家の主がバットを持って立っている。
彼の表情はまるでなく、まるで蝋人形のようだった。
そして彼はまるでロボットの様に、バットを振り上げ、歩み寄ってくる。

「真田さん、奥さんが包丁を………、誰かが刺されたようです」
沢田は声を震わせ、背後で騒ぐ。
しかし俺は、後ろを振り返ることができなかった。
正面の主が、ジリジリと迫って来ていたんだ。

「うわーっ!」
そのとき突然、先頭にいたカメラマンは叫びながら、主に体当たりをした。
そして彼等二人は、崩れるように床に倒れたんだ。
みんなも堰が破れたように、その後に続いた。
そしてドアを抜け、応接間に入る。

後ろにいた二人のスタッフは奥さんを押さえ込んでいた。
とにかく俺達は危機を脱した。
そしてスタッフはケーブルなどで、夫婦を縛ったんだ。
彼等はまるで人形のように、ジッとしている。
そして俺達がいくら問いつめても、何の反応も示さなかった。

「とにかく、警察を呼んでくれ………」
俺がそういうと、スタッフの一人が電話をかける。
「泰明さん、駄目です………、電話が通じません」
そのスタッフは呆然として、振り返る。

「外でかけてくればいいだろ!」
俺は興奮して、彼に叫んだ。
彼はあわてて玄関に走る。
「駄目です! ………玄関が開きません」
そう叫びながら、彼は戻ってくる。

そして、それを聞いたスタッフは、各々窓などを開けようとした。
しかし彼等は、失望するだけだったんだ。
(いったい、どういうことなんだ………)
俺は当惑した。
みんなも何か、思案しているようだ。

「そういえば、あの子はどうしたんだ………」
沢田さんが誰とも無しにそう呟く。
(まさか………、あの子の仕業なのか………)
俺の頭に、そんな途方もない考えが浮かんでくる。
そしてスタッフの一人が隣の部屋の扉を開けた。

ドアからは青白い光が漏れている。
一同はその光を見つめた。
ドアを開けたスタッフは、呆然として立ちすくみ、中を見ている。
俺は彼の所までいった。
そのドアの向こうには、のっぺりとした人間のようなものが立っていた。

「な、なんなんだあれは………」
俺は思わず、そう呟いた。
他のスタッフも俺の周囲に集まり、中を見て立ちすくんでいる。
彼はゆっくり、窓の方に歩き出した。
窓は自然にスーッと開く。

外は光が満ち、その光の正体はわからなかった。
彼の体は宙にフーッと浮き、窓の外にでた。
そして空に消えていったんだ。
奇妙な出来事だった。
後で他の子供を調べてみたんだけど、みんな行方不明になっていた。

そして親たちの、子供がいたという記憶は、ことごとく失われていたんだ。
あの子達がいったい何ものだったのか、わからない。
ただあの子達の母親は妊娠中、数ヶ月行方不明になったことがあるそうだ。

彼女達はその間の記憶が全くなく、誰にさらわれたのか、結局わからなかったということだ。
その行方不明の間に、何かあったのは間違いないと思う。
そしてそのことがきっかけで、あの子供達が生まれたんだ。
またいつか、人知れずあの不思議な子供を育てさせられる親が、現れるかもしれない。

しかしもう俺達は、あの病気といわれているものに、近づかない方がいい。
そんな気がする。
………じゃあ、これで俺の話は終わりにするよ。


       (六話目に続く)