晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>N5

そうだね、俺はそこまでは思わなかったけど、嫌な予感がしたんだ。
とにかく俺は、ホテルのロビーでみんなを待つことにした。
そしてしばらくしてから、長岡さんが戻ってきたんだ。
「泰明さん………………」
彼はげっそりした顔をしている。

「長岡さん、どうしたんですか………」
俺がそう声を掛けると、長岡さんはロビーのソファーに崩れるように座った。
「みんなが、いなくなってしまったんですよ」
長岡さんはポツリと、そう呟く。

「長岡さんだけなんですか………」
俺は当惑しながら、そう問いただしたんだ。
しかし彼は首を振り、否定はしたが、言葉を発しない。
何を聞いても、無駄だと俺は悟った。

取り敢えず、ホテルを出ると、当てもなくスタッフを探すことにする。
(いったい、この街は何なんだ………)
俺は、駅の方に行くことにした。
そして駅から真っ直ぐ伸びている道に出たときだ。

駅の方に、赤いランプがきらめいているが見えた。
(誰か、死んだのか………)
俺は駅に急いだ。
歩くスピードは徐々に速まり、そして走り出す。
駅前にはパトカーが止まり、淡々と事故を処理している。
俺は警察の隙間から被害者を見た。

それは今回の取材スタッフの一人だったんだ。
俺は深い絶望を味わった。
そして長岡さんに話を聞くしかない、そう思った。
ホテルに急いだ。
(いったい、どうしたというんだ………)
俺は考えても結論がでないことを何度も考えた。

しかし結論なんか出るわけもない。
そして交差点にさしかかり、左に曲がったときだ。
「や、泰明さん!」
それはスタッフの一人だった。
彼は恐怖の表情を浮かべ、俺の元に駆けてくる。
そして俺まであと数メートルの所に来たときだ。

そのスタッフの頭が突然、吹っ飛んだ。
彼は地面に崩れ落ちる。
そして俺の足元まで地に染めたんだ。
俺はホテルに走った。
何でもいいから手がかりが欲しい、そんな気持ちだったんだ。
ホテルに着くと、俺はロビーに入り、長岡さんを探した。

さっき座っていた筈のソファーには人影がない。
俺は取り敢えず、そこまで走った。
そしてソファーに手を突き、息を整えた。
背もたれに隠れるように、長岡さんが倒れている。
彼もみんなと同じように、頭を血に染めていた。

(長岡さん………)
俺は呆然として、立ちすくんだ。
(俺も死ぬのか………)
そして俺はただその街から離れたくて、駅に向かった。
街は連続殺人が起こっているとは思えないぐらい、静かで平凡だった。

今までのことは夢かもしれない、そんな思いが浮かんでくる。
俺は駅に着くと、電車に飛び乗り、帰路についた。
(あの街はいったいなんだったんだろう………)
車窓に映る街の夜景を見ながら、今までのことを回想した。
これが俺があのドキュメントの取材で体験した話だ。

俺はその後、あの事件をドキュメントにして放送した。
重要な部分は隠してね。
あれ以来、俺はあの街には行っていない。
今度行ったら必ず死ぬ、そう確信しているからだ。
葉子ちゃん、見知らぬ街に行くときは気を付けた方がいいよ。

あの街だけじゃないかもしれないから。
普通の街のように見えても、特別な何かがあるかもしれないから。
自分の街とは違う、何かを見つけても興味を示してはいけない。
その街の人と同じように振る舞うんだ。

じゃあ、次の人の番だな。


       (六話目に続く)