晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>O5

うん、俺もそのときそう思った。
そしてみんなを探しに行くことにしたんだよ。
それで幸いあの子の住所はわかっていたんで、家の近くに行ってみた。
あの子の家は、閑静な住宅街の中にある、平凡な家だ。

俺はその家の辺りを歩き回ったが、取材陣が潜伏している様子は無かった。
「奴ら、いったい何をやっているんだ………」
この家以外には、何も手がかりはない。
俺は万策尽きて、近くの公園のベンチに座り込んだ。

そして地面を見つめ、今までのことを考えた。
(しかし、これだけの事件が起きているのに、なぜ報道されないんだ………)
頭に浮かぶのは疑問ばかりだった。
俺の考えが行き詰まったときだ。

地面を見つめている俺の視線に、靴のつま先が現れた。
(だ、誰だ………)
そして俺はゆっくり視線を上げる。
そこには長岡さんが立っていた。
「な、長岡さん………」
彼は無表情の中に、僅かに笑いを浮かべているように見える。

「長岡さん、みんなは………」
俺はそういいながら立ち上がった。
「真田さん、遅かったじゃないですか」
そして彼は抑揚の無い声で、薄笑いを浮かべながらいったんだ。

「みんなも首を長くして待っていたんですよ」
周りを見ると、遠巻きにスタッフが立っていた。
俺はみんなの不気味な雰囲気に恐怖を感じたんだ。
(いったいみんなはどうしたんだ………)
みんなはゆっくり近づいてくる。

「真田さん、ここはユートピアですよ。みんなでここに住みましょうよ」
俺は当惑した。
(いったい長岡さんは何をいっているんだ………)
そしてみんなが俺の周りを囲むと、足をとめる。

「どうしたんですか、長岡さん………」
俺はいつもの長岡さんに戻ることを祈るように、そう声をかけた。
「ここは偉大なる王が支配する、ユートピアですよ」
長岡さんは更に大きく不気味に笑ったんだ。

周囲のスタッフも同じように笑い出す。
「いったい、その王というのは何なんですか………」
俺は強い口調で、長岡さんに聞き返した。
しかし彼等はその言葉には答えず、俺の手を引っぱる。

「さあ、行きましょう、真田さん」
みんなは俺を掴み、口々にそう呟いた。
そして引っ張り、どこかに連れていこうとする。

「やめてくれ………、ちょっとわけを説明してくれ………」
しかし俺の言葉はむなしく響くだけで、彼等の耳には届かなかった。
俺は彼等は振り払って飛び退いたんだ。
みんなは、口々にわけのわからないことを呟き、近づいてくる。

彼等の動きは緩慢で、まるでロボットのようだ。
俺は取り敢えず、その場を去ろうと振り返った。
公園の出口のところに子供が立っていたんだ。
(あの子は………)
あのはじめの日に事故現場を見ていた、野次馬の少年だった。

気のせいか、うっすらと目が光っているようにも見える。
俺の体は金縛りにあったように、動かなかった。
そして、俺の意識はそこで途切れたんだ。
次に俺が気付くと、ホテルの自分の部屋にいた。

俺は局にいったん帰り、何人かの部下と共に、みんなを探しに行ったんだ。
彼等は探すまでもなく、その街で平和に暮らしていた。
そして局に戻るように促したが、彼等は聞き入れなかったんだ。
みんなは結局、退職ということになった。

多分、今でもあの街で暮らしている。
結局、あれは何だったのか。
泰明さんの話は終わった。
(いったい、その街は何なんだろうか………)
私は少し行ってみたい、そんな気持ちが涌いてくる。

そして泰明さんにその街の場所を聞こうと、彼の方に振り向いた。
(えっ………………)
泰明さんの目がうっすら光っている様な気がする。
(気のせいだわ………、あんな話、聞いたばかりだから………)

私は街の場所を聞くのをやめた。
さあ、次の人の番だ。


       (六話目に続く)