晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>P5

とにかく俺は、ホテルのロビーでみんなを待つことにした。
そしてしばらくしてから、長岡さんが戻ってきたんだ。
「泰明さん………………」
彼はげっそりした顔をしている。

「長岡さん、どうしたんですか………」
俺がそう声を掛けると、長岡さんはロビーのソファーに崩れるように座った。
「みんなが、いなくなってしまったんですよ」
長岡さんは自分自身でも、何が起こっているか、分からない様子だった。

「みんなはどうやって、いなくなったんですか」
何を聞いていいのか、わからないまま、俺は彼にそういったんだ。
「きっと………、みんな、あいつに殺られたんです」
長岡さんは自分に向かっていうように、ポツリとそう呟く。
わけがわからなかった。

「あいつっていったい、誰のことなんだ」
彼は唇を振るわせ、何も喋らなかった。
「いったい、何をそんなに恐れているんだ!」
俺は長岡さんの体を揺すりながら、叫んだんだ。
しかし彼は何もいわなかった。

(何だ、いったい俺がいない間に………)
俺は彼が落ち着くのを待つことにしたんだ。
時間が漫然と流れた。
そして彼も落ち着いたのか、ゆっくり顔を上げたんだ。
彼はやっと口を開こうとした。

「真田さん………、実は………」
しかし顔を上げた、長岡さんの顔は一瞬で絶望の顔色に変わったんだ。
彼の視線は俺を通り越し、背後を見ている。
そして顔には、死を直感したような絶望が浮かんだ。

長岡さんの頭が、あのはじめに見た政治家のように、突然吹っ飛んだ。
俺は呆然と彼を見つめた。
(いったい………)
背中には突き刺さるような、冷たい視線を感じる。
それは俺に、振り返るなといっているような気がした。

そして程なく、その冷たい感じは消えたんだ。
しばらくして、恐る恐る振り返ったが、そこには何も無かった。
俺はその日の最終で帰ることにした。

長岡さんの事件は駆けつけた警察が処理をしたが、俺は特に事情を聞かれるということはなかったんだ。
あの政治家同様、誰にも注目されることなく、淡々と処理されるだけだった。
俺はあの街には、二度と行かない。

しかし、あの街が今、日本のどこかにあるのは確かなんだ。
広がっていくか、あの街だけで止まるのかは、わからない。
葉子ちゃん、もし見知らぬ街に行くときは注意した方がいい。
もし訪れた街が平和で、礼儀正しい人達がいるところだったら、そこかもしれない。

これで俺の話はこれで終わりだ。


       (六話目に続く)