晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>Q4

ははっ、面白いな。
確かにあの辺り一帯に原因があるとも考えられるよね。
でも一定の時間だけ、その効果が働いたり、一定の人だけに利く毒物というのも変だよな。
俺達もいろいろ考えたんだけどさ。
結局、結論はでなかった。

しかし、それから間もなく新たな事件が起きたんだよ。
また、人が死んだんだ。
今度は財界の著名人で、この事件を見過ごすわけにはいかなかった。
そして取材班は、直ぐに現地に向かったんだ。
現地にはかなりの取材陣が集まっていた。

死因は心不全ということだったが、連続でこんな事件が起きていることを、他局の取材陣もすでに嗅ぎつけている。
(ちくしょう! 早く取材を始めていれば………)
俺は悔しかった。
しかしデーターは他局より、そろっている筈だ。

他局の取材陣はわけもわからず、うろうろするだけだった。
俺達は隠密行動をすることにする。
スタッフは家庭用ビデオカメラを持ち、取材を始めた。
他局は、死んだ財界人を中心に調べている。

俺達は殺人多発地帯と、それまでの関係者をあたることにした。
しかし俺達はそれから数日間、何も手がかりを得ることはできなかったんだ。
(いったい、どこを調べたら………)
俺は当惑した。

そんなある日、他局の取材陣がかなり減っているのに気付いたんだ。
「他局は諦めたのかな………」
俺は残った取材陣を見ながら呟いた。
「実は泰明さん、スタッフの何人かが退職を申し出ているんですよ」
長岡さんは呟くようにいった。

「何故だ、急に………」
俺は当惑した。
「何か、取材もやる気がないみたいなんですよ」
彼は俺の顔を覗き込み、救いを求めているようにそんなことを呟く。
「それで、許可したのか」
俺は畳みかけるように聞いてみた。

「いや、保留にしてあるんですが………」
俺達の間に、重苦しい空気が流れる。
そして、少し間を置くと、長岡さんは更に言葉を続けた。
「………各社の取材陣も、同じことが起こっているようなんです」
俺は長岡さんの顔を見た。

「………いったい、どういうことなんだ」
彼の表情は硬直している。
「いや、わかりません………」
俺はスタッフに聞いてみることにした。
しかし退職を申し出たスタッフに話を聞いてみたが、何もわからなかったんだ。

そして、一人、二人とスタッフは無断でいなくなった。
何日かすると、ほとんどのスタッフがいなくなってしまったんだ。
各社の取材陣も、もうほとんどいない状態になっている。
(いったい、どうなっているんだ………)

俺と長岡さんは真相を突き止めようと、街を歩いた。
しかし、何も手がかりはない。
そしてその帰り道、長岡さんまで退職をいい出したんだ。
俺は長岡さんにその理由を追求した。
「実は………」
すると彼は急に地面に崩れ落ちた。

「長岡さん………」
救急車を呼び、病院に運ばれたが手遅れだった。
心不全だ。
「いったい、どういうことなんだ………」
俺は街をあてもなくさまよった。
(あれは………)
失踪したスタッフが街にいた。

俺は彼に駆け寄ると、失踪の理由を問いつめる。
しかしそのスタッフも、何かいいかけようとすると、地面に崩れたんだ。
「死んでいる………」
俺はその死体をその場に残し、歩き出した。
(いったい………、この街で………)

もうわけがわからなかった。
そして街の人に闇雲に掴みかかる。
「こ、この街で何が起こっているんですか………」
俺は次々と聞いた。
しかし彼等はみんな地面に崩れ落ちたんだよ。
結局、そのまま俺は局に帰った。

そして集まった資料をもとに番組を作ったんだ。
しかしその放送にはストップがかかった。
理由は告げられなかった。
ただ、圧力がかかったことだけはわかった。
そしてスタッフの失踪や、死に対しても俺は責任を問われるということはなかった。

それから俺は、あのときのことを何度も調べようとしたけど、いつも何かの障害にぶちあたる。
諦めるしかなかった。
葉子ちゃん、知らない街に行くことがあったら、注意した方がいい。
平凡な街のようでも何があるかわからないからね。

これで俺の話は終わりにするよ。


       (六話目に続く)