晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>A10

「ウーキャキャキャキャキャ!
ウーッキッキ!! ウーキキキキ!!」
私は、やけになって叫んだ。
(……ウ……、ウキキ?)
げっ!!
風間さんの悪霊がノってきた!

あ、悪霊じゃないか。
いや、悪霊かも。
(……ウキ? ウキキ?)
悪霊でも何でもいいわ。
問題はそこじゃない。
この状態をどうするかよ。
ああっ……!
どうしてこんなことになってしまったの?

(……ウキキ、ウキキキッ?)
まだやってる。
なんなの風間さんって。
(……葉子ちゃん、よくもわたしの正体をみやぶってくれたね。……そう、わたしはサルの霊だ)
えっ?
風間さんって、サルだったの?

ああっ、喉の奥があつい。
言葉が自然に込み上げてくる……。
「ウーキャキャキャキャ、ウキャキャッ! ウキャウキウキキャキウャウキャキウ、ウキャーーーーーーッ…………………」
私、何をいってるの?

だめ。
何も考えられない。
「葉子ちゃん、ちょっと、葉子ちゃんっ」
和子おばさんの声が遠くなっていく。
「葉子ちゃんたら、サルみたいに叫んで……」

和子おばさん、風間さんは危ないわ。
彼の正体はサルよ。
だから、サルの厄除けなんて効くわけない。
でも、こんなのあり?
たぬきが化けるのは聞いたことあるけど、サルが人間に化けるなんて。

それとも風間さんって、サルの霊にとり憑かれていたわけ?
(……葉子ちゃん、サルをばかにしてはいけないよ。人はみな、サルから進化しているんだから。わたしは確かにサルだけど、前世では人間だったんだよ。

その頃の記憶が忘れられなくて、こうして人間に化けてひっそりと暮らしているのさ。まあ、仲良くしようじゃないか。これからずっとね……ウキキッ!)
風間サルの、嬉しそうな声が心に響いた。


すべては闇の中に…
              終