晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>B14

踊りながら神託よ!!
「シュビドゥビドゥ〜〜〜」
大きな声でメロディーを唱える。
「ほーーーーーっ!!」
右手をあげ、左手は腰に。
こまかいステップを刻みながら、神託を始める。

「……和子。君と一緒のダンスは最高さ」
風間さんになったつもりで、風間さんの言葉を伝えてみる。
うーん、なかなか気持ちがいい。
降霊者になった気分。
「………」
あれ?
和子おばさん、黙り込んでる。

「葉子ちゃん、そんなステップじゃだめよ。それで社交ダンスのつもり?」
なんて冷たい言葉……。
「だめだわ。あなたに風間さんの霊は乗り移っていないみたいね。
風間さんの霊がついていたら、そんな最低な踊りはできないはずよ」

散々ないいよう。
和子おばさんは、ため息をついた。
ちょっと、あんまり脅かさないで。
風間さんじゃなかったら、私に乗り移ってるのは何の霊だっていうの?

「しょうがないわね」
和子おばさんが、苦笑しながら私の手を取った。
除霊してくれるのかな?
「葉子ちゃん、本当にしょうがないわね。いいわ、ダンスを教えてあげる。まずは、ジルバから始めましょうか」

……論点がずれてる!!
「はい、ワンステップ、ツーステップ、タタン、タンっと」
や、やめて、和子おばさんっ!!
ひどいーーーー。
私達は、しばらく踊り続けた。
(……和子。やっぱり君の踊りは最高だね。わたしなんて、足元にも及ばないよ。しょうがない、今日はもう帰るよ)

あ、あれっ?
風間さん、帰ってくれるの?
(さよなら、和子。さよなら、葉子ちゃん、またね)
私の口の中から、白い煙が立ちのぼる。
どうやら助かったみたい。
今のは、本当に風間さんの生霊だったの?

「はい、ワンステップ、ツーステップ、クルリとほいっ」
……和子おばさんは、気付かずに踊っている。
このまま降霊のことは忘れてほしいな。
私の視線に気付いたのか、和子おばさんはゆっくりとこちらを向いた。

「葉子ちゃん、今回の降霊は失敗だったね。霊は降りていなかったんでしょう? すっかり勘違いしちゃったわ。じゃあ、又今度お願いね。今度こそ、風間さんの生霊を呼び出しましょうね」
な、なんでそうなるわけ?

私は身の危険を感じつつ、次の話に進むことにした。
「も、もうダンスはいいです。他の人の話を聞きましょう……」


       (六話目に続く)