晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>D15

「風間さんは、和子おばさんのことを大好きだっていってます」
「本当? ……こまっちゃうわね!」
和子おばさんは、顔をぱっと明るくし、ニコニコしながら私の肩を叩いた。
和子おばさんてば、こまっちゃうなんていいながらけっこう嬉しそう。

「大好きだって? 悪びれもしないで。どうやら、私を本気で口説いてるってわけじゃなさそうね。
ならいいわ。うふふ」
……ふう。
一時はどうなることかと思った。
でも、この風間さんって、いったい何なの?

本当に、ダンスの会の人気者なのかしら。
それ以前に、私の中に降りてきた『風間さん』が、和子おばさんのいっている人かどうかも定かでないし。
まじめに、低級霊だったらどうしよう?

「あの、和子おばさん、風間さんの生霊を帰して下さい」
私は、不安になって頼んだ。
「ああ、わかったわ。ほにゃらかぷーーーっ、はにゃらかぴーーーっ、なむなむなむ、はーーーーっ!」
ああ……。

なんだか、力がぬけてしまう。
この間抜けな呪文。
脱力感におそわれちゃう。
あっ!
私の口から、白い煙のようなものが出てきたっ。
これは、風間さんの生霊?
煙の中にぼんやりと男の顔が見えるわ。

……笑ってる。
煙はぶるぶると震えながら、ふすまの隙間から出ていった。
それと同時に、私の頭の中がすっきりしてきた。
助かった……。
しかしひどい目にあったわ。
早く次の話を聞こう……。


       (六話目に続く)