晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>E16

「海は男のロマンなんです」
私は、きっぱりといいきった。
誰か笑ってくれないかしら。
冗談ですませたいんだけど。
「………」
和子おばさんは、黙って席を立った。
「あっ、どこに行くんですか?」

「もう、つきあってられないわ。
怖い話はあなた達だけでしてちょうだい」
あ……っ。
和子おばさん、行ってしまった。
「なんだ、かあちゃん行っちゃったじゃん。葉子ネエが変なこというからだよ」

良夫のやつ。
まったく、憎たらしい。
でも、すっかり場がしらけてしまった。
みんなは次々と席を立ち、どこかに行ってしまった。
せっかく怖い話をしていたのに。

五話目にしてぶち壊しなんて。
……ん?
何かしら。
風間さんが、又ぶつぶついいだしたわ。
(みんないなくなったのか? ……つまらないな。わたしも帰るよ)

や、やったー!
これで私は一人きりに……ん?
哲夫おじさん……。
ニコニコしながら残っている。
私が海の話をしたからかしら。
海は男のロマン……か。
哲夫おじさん、冒険家だからなあ。

共感してるの?
冗談だったのに。
真面目に話さなかった私が悪いのね。
あーあ……。
今夜は哲夫おじさんと、海の話を語り明かそうか。
…………………………って、ちょっと待ってよ。

そんなのはごめんよ!
せっかく風間さんの生霊が去ったんだから、話の続きをしなきゃ!
「すみません! みなさん! 待ってくださーいっ!」
私は、再びみんなを呼び集めた。

「さっきは変なことをいってすみません。降霊なんて初めてで、怖くなってしまって……」
どうにかごまかして、席についてもらう。
「葉子ちゃん、確かに海は男の浪漫だよ。おじさんは、別に変なことじゃないと思うなあ」

哲夫おじさんは無視しよう。
「風間さんの生霊はどこかに行ってしまいました」
手短かに説明し、話を進める。
「葉子ちゃん、大丈夫?」
あ、和子おばさん。
「すみません、あまり役にたてなくて」

「あら、私こそ、降霊なんて頼んでしまって……ごめんね。風間さんの気持ちは、もういいわ。直接本人に聞くわよ」
「そうですか……」
よかった。

一時はどうなることかと思ったけど……。
さあ、気をとりなおして、次の話を聞こうかな。


       (六話目に続く)