晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>G15

「風間さんは私のものよ! 誰にも渡さないわ!」
私はとり憑かれたように叫んだ!!
和子おばさんは、驚いたように口をあけてじっとしている。
あまりの展開に、身動きがとれなくなっているみたい。

「実は私、彼を知っているの。いえ、知っているだけじゃないわ、愛しているのよ!」
調子にのってわめきちらす。
和子おばさんがとまどってるのが面白くて。
「……そう。葉子ちゃん、そうだったの。ついに本当のことをいったわね。すっかり誘導尋問にのって」

……えっ?
「風間さんが私を口説いているなんてウソよ。今までの、私の態度も全部ウソ。葉子ちゃんを驚かせて、気持ちを聞きたかっただけ」
えええーーーっ?
「いいのよ。風間家っていったら名門じゃない。二人の結婚を認めるわ」

み、認められても……。
「愛があれば、年の差なんて関係ないわよね」
そういう問題じゃない!!
私が好きなのは泰明さんよ!
それに私、風間さんなんて人は知らないし。
風間さんの生霊って、なんだか変だし。

「葉子ちゃんは小さい頃、よく風間さんに遊んでもらっていたじゃない。それで、将来は風間さんのお嫁さんになるっていっていたわよね。私、覚えてるんだから。でも、まさか本当になるとはね」
ウソよー!
そんなはずないわ!!

「あ、あの……」
「風間さんの家って、この近所よね。今から挨拶に行こうか」
「け、結構です。やめてください」
「うふふ、照れちゃって」
和子おばさんは、無邪気に笑う。

何をいっても聞いてくれそうにない。
「さあいきましょう、今すぐによ!」
……負けた。
「明日にしましょう。今日は夜も遅いし」
私は、そういうのが精一杯だった。

明日は、どうにかごまかして帰ってしまおう。
しかし……こんなハプニングが起きるとは。
「ね、和子おばさん。次の話を聞きましょうよ」
もうどうとでもなれだわ、話を進めちゃおう。

しかし。
和子おばさんって、カラッとしてて好きなんだけど。
何でこんなひどい誤解をするの?
……私が悪いのね。
風間さんを愛しているなんていったから。

(和子、わたしが好きなのは君なんだよ……)
風間さんはぼそりと呟き、静かに私から離れていった。


       (六話目に続く)