晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>L14

(……よし、それでいい。それじゃあ話すからね。わたしは、風間望。職業は、ダンサーだ。いわゆる芸能人というやつだな。はっきりいって、かっこいい。わたしに見つめられた女性は、しびれて倒れてしまうぞ。

わたしは、そんな光景を幾度となく見てきた。自分でも思うよ。
罪な男だと。……前置きは、このくらいにしよう。怖い話だったね。
実はね、和子のことなんだけど。
彼女、最近何かにとり憑かれているように見えるんだ。手足がつっぱって、表情も固い。今までの和子と違う。そう思えてならない。

……あっ、そうか。最近、ダンスのレッスンはタンゴだったもんな。
動きも表情も固くなるよな。はっはっは)
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何なの、この風間さんって。

和子おばさん、こんな人相手にしちゃだめよ。
それともこの人は、どこかの浮遊霊?風間さんのふりをしているだけかしら。
「葉子ちゃん、どうしたの? 黙り込んじゃって」
和子おばさんにいわれて、私は我にかえった。

「ラップ音はやんだわね。さっきの霊は帰ったのかしら」
和子おばさんは、首をかしげている。
もう、疲れたわ。
(和子、帰ったなんてひどいよ。
わたしはここにいるのに)
風間さんの声が聞こえるけど、無視しよう。

「はい、彼はどうやら帰ったみたいです」
「ごめんなさい、葉子ちゃん。変なことに巻き込んで……。もういいわ。降霊なんてやめましょう。
危険だもの」
「そうですね……」
「電気つけるわよ」
「……はい」
やれやれ。

どうにか、うまくごまかせそう。
(ひどいよ、和子。ひどいよ、葉子ちゃん。話はこれからなんだよ)
風間さんは、ぶつぶついっている。
(風間さん、あなたは生霊でしょう。生霊って、長く体を離れていると体に悪いみたいですよ。私、なにかの本で読んだことがあります)

私は、心の中で呟いてみた。
体がぶるっと震える。
私の耳から、白い煙がふわーっと出ていった。
(わたしはもう帰るよ……)
風間さんの、いじけた声が聞こえてきた。

やった! 撃退したわ。
もう大丈夫ね。
さ、次の話を聞こうかな。


       (六話目に続く)