晦−つきこもり
>五話目(前田和子)
>M14

「嫌っ!!」
私は、彼の言葉に歯向かった。
「ど、どうしたの葉子ちゃん。何が嫌なの?」
心配そうに私を見る和子おばさん。
「だ、だって霊が……」

「霊が? 霊がどうしたの?」
「霊が……霊が、あれ?」
いつのまにか、頭の中から風間さんの気配がなくなっていた。
「風間さん。……風間さん?」
風間さんは、どこかにいってしまったらしい。
嫌だといったから、すねちゃったのかしら。

「それにしても……今のはひどかったわね。ちょっと、電気つく?」
和子おばさんは、スイッチを探しはじめた。
「あ、あった。つけるわよ」
「……きゃーーーっ!!」
窓に、霊の顔が浮かんでいた。
「た、助けてっ」
私は、この場を逃げだそうとドアに手をかけた。

「いやあーーーーっ!!」
なんてこと! ドアにも霊が……。
これ、もしかして風間さん?
座りこんだ私の肩に、和子おばさんが手をかけた。

「……葉子ちゃん、しっかりして」
やさしい顔。
こんな時でもしゃんとしてて、和子おばさんってすごい……ん?

和子おばさんは、ドアを強く叩きはじめた。
「風間さん、帰ってちょうだい。
もう、みんなを脅かさないでよっ!」
「う、うわっ、おばさんっ! そんなに叩かないで! 風間さんが怒ったらどうす……」

「大丈夫よ、ほら! あなたも叩きなさい!!」
「か、和子おばさ……やめてっ」
やめてええ……。
(和子は本当にひどいなあ……わかったよ、もう帰るよ)
風間さんの声が、耳の中をすり抜けた。

「か、和子おばさん! もう大丈夫です! 風間さんは帰るそうですから」
私は和子おばさんにすがりついた。
「……あら、そうなの。でも、だめ押しにもう少し叩いておこうかしら」

「い、いえ……やめてください」
「そうお。まあいいけど」
和子おばさんは、少しだけ不満そうな顔をしている。
ああもう、これからどうなることやら。

私は、座りなおしてからため息をついた。
「じゃあ、次に話してくれるのは……」


       (六話目に続く)