晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>A6

哲夫おじさんは、いきなり頬を赤らめた。
「……じ、冗談のつもりでいったんだが。まさか葉子ちゃんにその気があったなんて」
わけのわからないことを口走っている。
「葉子〜、いきなり何いいだすのよ」
由香里姉さんが渋い顔をした。

あ、あれ?
なんか、まずいことをいったかしら。
でも、もう遅いわ。
哲夫おじさんは、ニコニコしながら、いきおいよく続きを語り始めた。

「それで自分は……がはは、だからつまり……その時……がっはっは」
本人はすごい冒険談のつもりみたいだけど、熱く語り過ぎてて、何をいってるのかよくわからない。
適当に相槌を打ちながら、話を聞いた……。
そして次の日。

「葉子ちゃん、
春休みはまだあるだろう?」
哲夫おじさんが話しかけてきた。
「あ、はい」
何だろう。

「昨日、子供を冒険家にするって話をしたろう? 自分に協力してほしいっていったよね。あれ、プロポーズの言葉だと思っていいのかな?」
え、えええーっ!?
頬を赤らめたり、やけにニコニコしていたと思ったら。
哲夫おじさん、そんなことを考えていたの?

「あれ、葉子ちゃん、
どうしたの?」
泰明さんが通りかかった。
「ああ、泰明兄さん。今、葉子ちゃんのプロポーズを受けていたんですよ」
とんでもないことをいう。
「ふうん、幸せにね」
泰明さんは、にっこり笑って去っていった。

……ひ、ひどい!
やだ、やだ!
そんなつもりじゃなかったのに……!
混乱する私の手を、哲夫おじさんの熱い両手が、がっしりと掴んだ。
もう、逃げられない。

私は、哲夫おじさんの笑い顔を前に、まだ見ぬ子供の姿を想像するしかなかった……。


すべては闇の中に…
              終