晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>B12

「危ない!!」
自分は、すぐさま手を差しのべたんだ。
シスターは、信じられないといった目で自分を見た。
「何で……?」
そんなことをいっていたな。
自分は、シスターの手をがっちり掴みながらいったんだ。

「シスターが、悪い人には思えないんです」
「……あ……ありがとう……」
安全な所まで支えてやると、シスター・エマは、目を伏せて語り始めた。
……あの金は、裏口入学の金だったのだと。

聖水のからくりは、初め、秘密の懺悔に使うための部屋だったらしい。
それが、いつのまにか使われなくなり、裏口入学をさせていた連中に利用されていたっていうんだ。

裏口入学っていうのは、補欠が出たとき、金を積んだ生徒を入れるっていうものらしかったんだがな。
補欠が出なかった年があったらしいんだよ。
その時、ぎりぎりで入れた生徒を事故にあわせて、入学を辞退させようとしたらしいんだ。
だが、タイミングが悪くてね。

軽傷を負わせるつもりが、誤って殺してしまったというんだ。
……それが、おそらくあの男の子の霊だったんだろう。
一連の事件を引き起こしていたのは、一部の学園経営者だったらしい。

シスターは、偶然礼拝堂で札束を見つけてしまい、威されて番人まがいのことをしていたというんだ。
自分達は、それを学園長に話したんだよ。
床下にあった金は、募金に寄付された。
金がそっくり運び出されると、男の子の霊がふっと現れたよ。

その場にいた自分と、ショーンに笑いかけてきたんだ。
ショーンの奴は、あいかわらず気付かなかったよ。
だから、自分が教えてやった。
奴は首をかしげながら、男の子の霊がいる方向に手をふっていたよ。
そうそう、シスター・エマのことだがな。

シスターは、威されていた手前、最初は事実を話すのを嫌がっていたんだ。
だが、そのままではいけないと思ったんだな。
すべてを話して、学園を去ったんだよ。
そして、自分も……。

「テツオ、本当に行ってしまうのか?」
「うん、自分には、こういう堅苦しい学園はあわないから」
事件の後で決心したんだ。
自分は、もっと自由に出かけ、いろんなものを見て、様々な経験をしたかった。

日本に帰り、別の学校に通いながら、スポーツや旅なんかをしようと思ったんだよ。
ショーンは、卒業まで通うといっていたな。
「テツオがいなくなるのは寂しいけど……いろんな奴と話すようにするよ」
「そうか」

「シスターがあんなことになったのは、相談できる人がいなかったからじゃないのかな。ほら、いつも一人で本を読んでいるような人だったろう? だから……」
そういってショーンは、わずかに笑った。

「テツオ、いつかまた会おう」
「うん」
「今度こそ、財宝を掘ろうね」
「そうだな……」
この事件だけじゃない。
世界に眠る財宝には、何かしら黒い影が付きまとっているんだよ。

冒険を楽しいと思っているだけじゃ、やりきれないことっていろいろあるんだ。
それを乗り越えてこそ冒険家だ。
自分は、十代の多感な時期に、そのことを学んだんだ。
ショーンにも、わかっていたと思う。

わかっていながら、また宝を探そうっていうんだから。
あいつも、なかなかやる奴だよな。
……それから、ショーンには会っていない。
だが、いつかきっと会うよ。
その日まで、自分は冒険し続けるんだ……。
自分の話はこれで終わりだよ。
次は、誰の番だい?


       (六話目に続く)