晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>C12

「きゃあああっ!!」
シスターは、とっさにショーンの服を掴んだ。
「うわっ!!」
ショーンがよろめく。
自分の手は間に合わなかった。
「ぎゃあああっ!!」
ショーンとシスターは、床下に落ちてしまったんだ。

「う……ぐう……」
下で、二人がうめいているのが見えた。
「ショーン!!」
自分は、すぐさま下におりたよ。
シスターは、ぴくぴくしていたかと思うと、がくりと動かなくなった。

「し、死んだのか……?」
自分は、しばらく動けなかったよ。
「テツオ……とにかく、保健室か何かに……」
ショーンは、息をゼイゼイいわせていた。

自分も苦しかったろうに、ふらつく足取りで立ち上がると、シスターを担ぎ上げようとしたんだ。
「駄目だよショーン! 自分が運ぶ!!」
自分は、急いでシスターを担ぎ上げた。
そして自分達は、保健室に行ったんだ。

保健の先生はいなかった。
自分は、ショーンとシスターをベッドに寝かせ、先生を呼びにいったんだ。
……戻ってくると、ショーン達はいなくなっていた。
捜したが、どこにいるのかさっぱりわからなかった。
誰か見ていなかったかと思っていろいろ聞き回ったよ。

だが、全然駄目だったんだ。
その夜、ショーンは部屋に戻ってこなかった。
嫌な予感がしたよ。
自分は、奴の部屋の前で、一晩中待ち続けたんだ。
……次の日、自分は担任の先生に相談してみた。
すると、ショーンが転校したと聞かされたんだ。

自分は、奴が黙って去っていくはずはないといいはった。
だが、取り合ってもらえなかったんだ。
それで、事務局に問い合わせた。
しかし答えは同じだった。
シスター・エマのことも調べたよ。

そうしたら……彼女は転勤したといわれたんだよ。
そして、別室に通された。
そこで自分は何者かに襲われたんだ。
突然布を頭からかぶされ、ボコボコに殴られたんだ。
「この学園の秘密を探られちゃあ困るんだよ」
そんなことをいわれたよ。

自分は、必死で抵抗した。
そばにあった椅子を振り回し、命からがら逃げてきたんだ。
あの学園には、とてつもない秘密があったんだろうな。
自分は、すぐに帰国した。
学園の連中は、日本まではやってこなかったよ。
ショーンは、今頃どうしているんだろう。

きっと、奴も逃げ出したんだろう。
そして、いつか学園の謎を解こうと思ってるに違いない。
……自分は、冒険家になろうと心に誓った。
そして、数々の冒険を乗り越えたら、またあの学園に行って、謎を解き明かそうと思っているんだ。

ショーンも、そうなんじゃないだろうか。
自分達は、いつかきっとまた会える。
そう思っているんだよ……。
……哲夫おじさんの話が終わった。
外国のおぼっちゃん学校で、そんなことがあったなんて。
本当かしら?

その時、おじさんの背後に、誰かの影が浮かんだ。
モスグリーンのブレザーに、赤いリボンタイ。
金髪の男の子だった。
まさか、ショーン……?
えっ、ちょっと待ってよ。
殺されていたの……?
ショーンは、哲夫おじさんにぴったりと寄り添っている。

……そうか。
ああやって、哲夫おじさんと一緒に、いろんなところへ冒険しているのね。
「さあ、次は誰の番だい?」
哲夫おじさんが、明るくいう。
私は、みんなを見回した。
誰も、ショーンの霊には気付いていないようだった。
……このことは黙っていよう。

きっと、それが一番いいんだわ。
ショーンは、学園の謎を解き明かした時に、また哲夫おじさんの前に現れるんじゃないかしら。
そんな気がする。
さあ、次は、誰の話を聞こうかしら……。


       (六話目に続く)