晦−つきこもり
>五話目(鈴木由香里)
>F5

地味な式がいい?
身内だけで挙げる式で、ささやかな披露宴に、手作りのケーキとドレス?
いくら地味っていっても、せめて、それくらいのことは、やるんだよね?
でないと、おじさんたちが可哀想じゃん。

きっと、一人娘の晴れ姿を楽しみにしてると思うんだ。
賭けてもいい。
葉子のパパは、絶対、式の最中に泣くよ。
それほどまで愛されてんのに、結婚式が写真一枚なんかじゃ、親不孝ってもんだよ。

その点、岡本さんの結婚式は、ごく普通の平凡な式だったと思う。
あまり派手好みじゃない彼女らしい、一番、親孝行な式だったよ。
出席か、欠席か、迷ったんだけど、いちおう結婚式には出席したんだ。

彼女の旦那様になる人に興味があったからね。
遺跡調査のバイト仲間は、みんな同じ考えだったと思うよ。
つまり……。
骸骨が好きな岡本さんが結婚する人なんだから、きっと骸骨そっくりなんだろうって、みんな思ってたのさ。

披露宴が始まって、新郎新婦が入場してきたよ。
普通に、ドアを開けての入場だった。
旦那様はどんな人だろう?
最初のうちは、新婦のベールの陰になって、よく見えなかったんだ。

でも、やがて場内が明るくなってきて、新郎の姿が、やっと確認できた。
その瞬間、
「えーーーーーっ!?」
私たちのテーブルからは、小さな驚きの声があがったんだ。
岡本さんの旦那様はね、骸骨そっくりな顔をしてたのよ。

本当に、岡本さん好みの顔だった。
みんなは、笑いを押さえるのに必死。
「実にお似合いの二人ね」
って、口にしては笑ってたんだ。
それでも、みんなの祝福の気持ちに変りはなかったよ。

悪友たちの笑い声の中で、その日の岡本さんは、とても幸せそうだった。
彼女は結婚後、たった一週間で死んじゃったけど、充実した日々だったと思う。
だって、それは彼女自身が望んだことだから。

彼女の死体は、自宅で発見されたんだけど、警察官や近所の人の目の前で、瞬く間に白骨になったんだって。
不思議なことに、その日から旦那さんの姿も見えなくなったんだ。

『恐怖の新婚家庭、夫が妻を殺して逃走!!』
とか、
『新婚妻の奇怪な死と、夫の逃走!』
なんて、新聞や週刊誌はいいたい放題だった。
それでもけっきょく、旦那さんは見つからず、彼女の死因は全く不明のまま。

いろいろ噂は流れたけど、奇病の一種じゃないかっていう説が、一番、有力だった。
それからしばらくして、私は、彼女の結婚式の時のフィルムが、カメラに入れっぱなしになってるのを思いだしたんだ。
私は、最後に見た彼女の姿だからと思って、すぐ現像してもらったのさ。

ところが、彼女の顔の写ってる写真が一枚もないの。
どの写真を見ても、後ろを向いちゃってたり、人に隠れてたり、ベールの陰になってたりで顔が見えないんだって。
旦那さんの写真にいたっては、全く、皆無だった。

でね、写真の枚数とフィルムの枚数を確認すると、一枚、写真が足りないんだ。
フィルムを光にかざして見ると、それは、新郎新婦の二人を正面から撮ったもののようだった。

これなら、二人がちゃんと写ってるはず!と、思って、急いでそれだけ現像してもらったんだ。
店に行くよりも早いだろうと思って、大学で写真の勉強してる友達の所へ持ってったんだけど……。
その後、出来上がってきたのが、この写真なんだ。

これを見れば誰にだって、彼女の死因がわかるよ。
どう?
新郎も新婦も、骸骨になってるでしょ?
特撮や、特殊メイクじゃないんだよ。
確かにお店じゃ、こんな写真は渡してくれないよね。

しかも、見て。
新郎の右手には、しっかりと鎌のようなものが握られてるんだ。
その鎌の刃が新婦の首に……。
ね、彼女の死因が、なんとなくわかった?
その後、彼女の遺品を整理してたら、遺書が見つかったんだって。

それには、
『愛する人の元へ行きます。心配をかけてごめんなさい』
とだけ、書かれてたってさ。

彼女は、いったい誰を愛していたっていうのかなぁ?
博物館に納められた、あの骸骨?
写真に写ってた死神?
それとも、私の知らない別の誰か……?
いずれにせよ、岡本さんは、望んで死を迎えたってことだよね。

まあ、それも一つの生き方だね。
恋に生きて、恋に死ぬってやつ?
私には、わかんないけどさ。
それじゃ、私の話はこれで終わり。
どうぞ、お次へ。


       (六話目に続く)