晦−つきこもり
＞五話目（藤村正美）
＞C11

まあ、当たりですわ。
更紗ちゃんの日記には、彼女自身の悩みがつづられていました。
生まれつき病弱で、中学校入学を待たずに亡くなってしまったこと。
なのに、気づいたときには自分のベッドに寝ていて、今までと同じ生活ができたこと。

たった一つ、日光には当たるなと、恭介さんからいわれたこと。
そしてそのうち起こった、恐ろしい事実についても書かれていたのです。
数カ月ごとに、更紗ちゃんの美しい肌がたるみ、異臭を放つようになったのですわ。

その時期が来ると、恭介さんは『治療』を施してくれたそうです。
わかりますかしら。
『治療』とは、しわや染みのできた更紗ちゃんの皮膚を、新しいものと交換するという作業だったのですわ。

恭介さんは、そのために、定期的に若い女性を必要としていたのです。
「死んだはずの私が、なぜこうして、日記を書いているのかわからない。だけど、もう兄さんに、あんなことをさせたくない」
…………日記には、そう書いてあったそうですわ。

「今度また、兄さんが誰かを連れてきたら、何とかして追い出してやろう」
ともね。
つまり看護婦の彼女は、初めから更紗ちゃんのための材料として、屋敷に呼ばれたのでしょう。
更紗ちゃんは、その彼女を助けようとしたのですわね。

その後に、どうやったら『犠牲者』が逃げ出すかを考えた、リストのような物が続いていました。
うじ虫のスープも、階段にピアノ線を張って転ばせるのも、全てその中に書かれていたそうです。

もう、これ以上犠牲者を増やしたくない……という思いが、多少の行き過ぎを招いてしまったのでしょうね。
けれど、更紗ちゃんは必死だったんですもの。
責めてはかわいそうですわ。
……かわいそうな更紗ちゃん。
ああ、そうそう。

不思議なことが一つ、あったのですわ。
更紗ちゃんのリストの中には、夜更けに彼女を脅かした、足をつかんだ化け物も、ベッドの下にいた化け物もなかったそうですの。
そういえば、あのとき部屋の鍵は、かかっていたはず。

更紗ちゃんが、どうやって細工しても、あんな物を二体も用意できたはずはないのですわ。
と、いうことは……？
まあ私は、恭介さんの手に掛かった、犠牲者の霊ではないかと思うんですけれど。
実際のところは、よくわかりません。

さあ、これで私の話を終わりますわ。
次の方、どうぞ。


　　　　　　　（六話目に続く）