晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>O6

そうでしょう、うふふ。
夜になっても、彼女は興奮したまま、寝つけなくなってしまったんですの。
ほら、怒ると頭に、カーッと血がのぼるでしょう。
いくら考えても、あのネズミが気のせいだったとは思えません。

ということは、更紗ちゃんと恭介さんが、しめし合わせていたのですわ。
いいえ、更紗ちゃんが、やさしい恭介さんを、無理矢理巻き込んだのでしょう。
このままには、しておけません。
彼女は、更紗ちゃんの部屋を訪ねました。

ノックしようとしたとき。
何か、くぐもったような、小さな悲鳴が聞こえたのです。
何となく嫌な予感がして、彼女は鍵穴から覗いてみることにしました。
…………部屋の中には、更紗ちゃん一人のようです。
子犬を抱いて、頬ずりしているように見えましたわ。

ところが、更紗ちゃんがこちらを向いた瞬間。
彼女は見てしまったのです。
子犬の首から、生き血をすすっている更紗ちゃんを!!

彼女は驚いて、とっさに悲鳴をあげてしまったのです。
振り向いた更紗ちゃんは、目をつり上げて、飛びついてきました!
「きゃあっ」
しりもちをついた彼女の目の前に、扉から溶け出すようにして、更紗ちゃんの上半身が現れましたわ。

更紗ちゃんは、くちびるについた血の汚れを、おいしそうになめ取りながら、いいました。
「逃がさない……」
次の瞬間、鋭い牙が彼女の頚動脈を、正確にとらえたのですわ。
…………それ以来、彼女の姿を見た人はいません。

私以外に、彼女がどうなったのかを知る人は、誰もいないのですわ……うふふ。
さあ、私の話は終わりですわ。
六話目は、どなただったかしら?


       (六話目に続く)